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佐藤 正晴 教授(専攻 メディア史)

(1) 社会学とはどのような学問とお考えですか。

私は高校時代、「自分が大学4年間を費やすに足る学科は何か」をなかなか思い描けませんでした。文学・法律学・政治学・経済学・経営学・国際関係学、以下諸々。とても自分が関心をもって勉強していける学科とは考えられませんでした。そういう中、一番つかみどころがないというか裁量が広く志望が曖昧な自分を受け入れてくれそうな学科に見えたのが社会学でした。しかし当然、大学入学後も自分がなぜ大学に来たのか、社会学とは何を学ぶのか、自分はなぜ社会学を選んだのか、あまりよく分からないまま時間が流れていきました。

たくさんの社会学者の先生方の授業を受けましたが、「これが社会学である」と断定的に言い切る先生はほとんどおられませんでした。おそらく社会学者の数だけ社会学への考え方があるということでしょうが、それは決して社会学が浅く散漫な学問であるということではなく、家族、地域、産業、犯罪、コミュニケーションから携帯電話の普及や若者の流行などまでも多様な社会現象の〈現代性〉を扱っているということです。日本や世界で、いままさに起こっている事象の実態やそれが発生する理由をあきらかにし、その事象の効果などについて思考をめぐらすのが、社会学的思考だと思います。

私が大学時代に関心をもった社会学はマス・コミュニケーション、メディアを通じて社会について考えることで、この研究テーマと出会えたことが、社会学を学んでいく上での最大の成果であったと思っています。日常生活を研究対象とする社会学においては、その気になれば毎日が小さくても新しい発見に満ちているわけで、そのような新鮮な発見感覚を持ち続けることが大事になります。ただ自分が発見したことであれば何をやってもよいのではなく、自分が立てた問いに答えるだけではなく、その問い自身が時代を超えて皆に共有されるような鋭い問いであるかどうかも大切です。マルクス、デュルケム、ヴェーバー、ジンメルといった時代を超えて何度も問い直される問いを立てた先人の社会学者についても勉強すべきです。自戒の念を込めています。社会学を知れば世界の広がりも大きくなるわけで、社会学を単なる知識にとどめるのではなく、大学時代に社会学を使いこなせるようになってください。

(2) 先生が専攻されている、あるいは、この大学で学生に教えられている社会学とはどのような学問ですか。

「メディア史」を専攻しているというと「メディア史って歴史学じゃないの?」と思う人がいるかもしれません。メディア史は社会学です。社会学として同時代を生きる人々の実感やリアリティ(現実感)を重視するためにはメディア史が必要なのです。「マス・コミュニケーションの発達と普及」という言い方が現代の社会を語る上での決まり文句になっていることは、皆さんご存知の通りだと思います。しかし「マス・コミュニケーションの発達と普及」を歴史的分析によって明らかにする研究が十分になされてきているとはいえないと思います。私が専攻しているメディア史は、「現代社会」あるいは「近代」を一定の歴史的展望のもとにとらえるために、マス・コミュニケーションあるいはメディアを歴史的にとらえることを有効な研究視角として捉える学問です。メディア史のなかには当然、新聞史、出版史、放送史といった枠組みが含まれますが、パーソナルなメディアやコミュニケーションの歴史、ジャーナリズムの歴史など幅広い社会的視野のなかで研究しています。さらに自分の課題として、メディアという視角から政治・社会・文化・経済などを実証性をもって切り取れるようになりたいと考えています。

(3) 1~2年次で読んで欲しい本

  1. 『日本のジャーナリズム』(新井直之・内川芳美編 有斐閣 1983) 日本のジャーナリズムの特質を近現代史の展開の中で明らかにしている。
  2. 『本が死ぬところ暴力が生まれる』(バリー・サンダース・杉本卓訳 新曜社 1998) まさにタイトル通り。電子メディア時代における人間性の崩壊を提唱している。
  3. 『TVマスコミ「ことば」の真相』(藤井青銅 メディアファクトリー 2001) この本には私の授業と同じノリを感じます。この本を読んで面白いと思わない人は私の授業を受けても面白くないのでは?絶対に面白いです。
  4. 『<声>の国民国家・日本』(兵藤裕己 NHKブックス 2000) 浪花節の声という視点から、近代日本の成立を問い直している。
  5. 『敗北を抱きしめて―第二次大戦後の日本人―』(ジョン・ダワー著、三浦陽一・高杉忠明訳 岩波書店 2001) 敗戦後占領下にあり、種々制約はあったが、他方実に生き生きと新しい理想を謳った精華として「日本国憲法」を取り上げている。
  6. 『ぼくらがドラマをつくる理由』(北川悦吏子他 角川ONEテーマ 2001) 誰もが知っている人気ドラマの制作者たちがおもしろくまじめに語っている。
  7. 『子どもの笑いは変わったのか』(村瀬学 岩波書店 1996) 社会の変動とともに、子どもの笑いは変わったのか。現代の笑いは、子どもたちの生活と意識にどういう影響を及ぼしているのか。1960年代以降のテレビ番組とお笑いタレント、テレビアニメの笑いの変遷を追いながら、子どもたちが直面する現実をわかりやすく解説している。
  8. 『メディアと権力』〔日本の近代〕(佐々木隆 中央公論新社 1999) 近代日本の新聞史・メディア史について「情報」と政治権力を実証的手法という異なった視点から描いている。
  9. 『メディアと暴力』(佐々木輝美 勁草書房 1997) メディアによる暴力描写を通じて、私たちとマス・メディアとのつき合い方をさぐっている。
  10. 『大衆娯楽と文化』(関口進 学文社 2001) 余暇時間の生活と娯楽という側面から芸術・芸能について、特に音楽の分野について多く取り上げている。
  11. 『キミがこの本を買ったワケ』(指南役 扶桑社 2007) この本は、けっして研究書ではない。しかし、皆さんの周りのメディアに関する鋭い問題提起がなされている。メディア研究をはじめたい人にヒントを与えてくれる1冊。
  12. 『なぜ三ツ矢サイダーは生き残れたのか-夏目漱石、宮沢賢治が愛した「命の水」125年』(立石勝規 講談社 2009) 三ツ矢サイダーと聞いて、皆さんが思い浮かべるのは、まずは商品のイメージ。あとCMくらいかと思う。しかし、三ツ矢サイダーが、125年にわたって社会との密接な関係を築いてきたことも見逃すわけにはいかない。身近なモノから社会学について考える上での良書。
  13. 『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(成馬零一 宝島新書 2010) 挑発的なタイトルだけど、内容は比較的まじめ。4頁でゼロ年代の重要作として『池袋ウエストゲートパーク』(00年)『木更津キャッツアイ』(02年)『花より男子』(05年)が挙げられているが、私も同感(この3作品のDVD-BOXは購入して個人研究室に所収しています)。223頁には、「引用文献/主要参考文献」が明示されているので、合わせて読んで勉強の上、おおいにつっこみをいれながら読んでほしい。
  14. 『メディア文化を社会学する』(高井昌吏・谷本奈穂 世界思想社 2009) 『スラムダンク』や『あしたのジョー』といった有名なメディア作品がもたらした文化現象を、理論や流行現象の視覚のみならず、歴史の視覚からも再考している。メディア作品を社会学として「実践」したい人にヒントを与えてくれる。
  15. 『フジテレビはなぜ凋落したのか』(吉野嘉高 新潮社 2016) 後掲の16と合わせて読んでみるとよい。フジテレビの開局から現代までの改革の歴史について成功も失敗も交えて詳細に論じている。普段、私たちがフジテレビの番組を観る際の見方が変わるかもしれない。
  16. 『日本テレビの「1秒戦略」』(岩崎達也 小学館 2016) 前掲の15と合わせて読んでみるとよい。日本テレビが競合他社に対抗する手段と考えたマーケティング術の詳細がわかる。普段、私たちが日本テレビの番組を観る際の見方が変わるかもしれない。

(4) 3~4年次で読んで欲しい本

  1. 『ドナルド・ダックを読む』(アリエル・ドルフマン、アルマン・マトゥラール 山崎カヲル訳 晶文社 1984) ディズニー漫画に見る帝国主義イデオロギーを文化侵略と位置付ける子ども文化研究の古典。
  2. 『言論と日本人』(芳賀綏 講談社学術文庫 1999) 歴史を作った有名・無名の話し手たちの肉声のロジックやレトリックから日本人と言論の近現代史をさぐっている。
  3. 『黄禍論とは何か』(ハインツ・ゴルヴィツァー 瀬野文教訳 草思社 1999) 黄色人種の脅威を煽った欧米諸国の言説を網羅し、その背後にあった欧米人の屈折した心理を浮き彫りにした労作。
  4. 『人気者の社会心理史』(市川孝一 学陽書房 2002) O・E・クラップの「社会的タイプ」という概念との関連で、人気や人気者をとらえている。人気者の変遷は人気の法則を提示する。現代の人気者にも大いにあてはまる。
  5. 『ジャーナリストの誕生』(ジャン・ダニエル 塙嘉彦訳 サイマル出版会 1976) ジャーナリズムとジャーナリストのあり方を問う、職業的自伝。
  6. 『ナショナル・ヒストリーを超えて』(小森陽一・高橋哲哉編 東京大学出版会 1999) 日本のナショナリズムをめぐる史観論争の問題点が明確になる。自身の歴史意識を構築する上で役にたつ一冊。
  7. 『書物の近代』(紅野謙介 ちくま学芸文庫 1999) 出版文化を根幹にすえた近代という時代にあって、書物と人はいかなる変容を遂げたのか。活字印刷の始まった明治から戦後にいたる小説と作家たちの格闘をたどっている。
  8. 『欲望と消費』(スチュアート&エリザベス・イーウェン 小澤瑞穂訳 晶文社 1988) ファッション、広告、新聞、映画を通じたメッセージが私たちを消費へと駆りたてる。そこで生み出された欲望と消費の回路を歴史をおって丹念にたどっている。
  9. 『新聞記者の誕生』(山本武利 新曜社 1991) 日本のメディアをつくった人びとの実態が詳細に理解できる。
  10. 『理想の新聞』(ウィッカム・スティード 浅井泰範訳 みすず書房 1998) 『ザ・タイムズ』の編集長が新聞の経営実態、編集の現場、広告と部数拡大、自由の価値について語るジャーナリズムの古典。
  11. 『文化としてのテレビ・コマーシャル』(山田奨治 世界思想社 2007) 日頃慣れ親しんでいるテレビ・コマーシャルを体験的に勉強するのに最適な一冊。
  12. 『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』(神永正博 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2009) 「統計」という言葉を聞くと、「難しそう」という印象を持つ人が多いかと思う。「統計思考力」という聞きなれない手法を用いて社会および時代を明快に分析している良書。
  13. 『ビッグコミック創刊物語―ナマズの意地』(滝田 誠一郎 プレジデント社 2008) マンガが読むものであることは、みんなも知っていると思うし、マンガを描くのがマンガ家であることも合わせてすでに知っている人が多いと思う。加えて、マンガを出版するまでに編集者をはじめとする多くの人たちがいかなる形でかかわっているのかを知ってほしい。さらに、マンガ雑誌の創刊の経緯にも興味をもってほしい。
  14. 『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』(レイ・A・クロック、ロバート・アンダーソン著、野崎雅恵訳 プレジデント社 2007) マグドナルドを世界的チェーンにしたレイ・クロックの自伝。レイ・クロックのベンチャー企業家、慈善家といった人間的な側面も興味深いが、アメリカの社会がいかに彼を受け入れていったのかについても注目してみてほしい。巻末には孫正義と柳井正の対談もあり、好きな箇所から読み進めてみてほしい。
  15. 『テレビ・コマーシャルの考古学-昭和30年代のメディアと文化』(高野光平・難波功士 世界思想社 2010) テレビ・コマーシャルに関する専門書は少ないが、本書は昭和30年代を中心に採り上げつつ現代にも通じる多くの問題について関心をもたせる内容になっている。
  16. 『広告のクロノジー マスメディアの世紀を超えて』(難波功士 世界思想社 2010) 広告について日本の現状のみならず歴史や海外の事情にまで目配りをして総合的に論じている。学部生から社会人まで読むと広告全般について多くの知見が得られる。

(5) 先生の代表的な著書または論文を二つか三つ教えてください。

  1. 「職業としてのジャーナリスト、その労働市場」(佐藤正晴 田村紀雄/林利隆[編] 1999 『新版 ジャーナリズムを学ぶ人のために』世界思想社)
  2. 「言論・表現の自由史」(佐藤正晴 田村紀雄/林利隆[編] 2004 『現代ジャーナリズムを学ぶ人のために』世界思想社)