明治学院大学社会学部MENU

浅川 達人 教授 (専攻 都市社会学・社会調査)

(1) 社会学とはどのような学問とお考えですか。

2006年の着任以来、この問いに対して「社会を紙に書く仕事」とお答えするようにしてきました。しかしながら、2011年3月11日を契機に考え方を変えました。今は「社会に役立つ学問」と答えることにしています。

社会学における、実践に直結することを必要としない基礎研究の重要性は、改めて指摘する必要もないでしょう。しかしながら、失敗を恐れず実践を引き受ける研究も、もっと盛んに行われるべきだと私は考えるようになりました。

東日本大震災という未曾有の大災害を目の前にして、問題の規模の大きさ、深刻さにたじろぎ、実践的関わりをためらってしまう傾向が、私たち大学人の間にはあるように思われます。ですが、大学に所属する多くの社会学者が、学生のみなさんとともに被災地の生活に寄り添い、きちんとした社会調査と社会学的知見に基づきながら、復興支援活動を展開すべきであると考えています。そのような取り組みは、実践活動であり、研究活動であり、なおかつ教育活動にもなるからです。復興支援活動を通して私たちは、「未だ正解が用意されていない問題に対して、後に正解であると認められる答えを導きだす力」を身につけることができるようになることでしょう。

もちろん、教育を目的として被災地に入って復興支援活動を行うことは、本末転倒であり避けるべきです。「学びに来ました。何か教えてください。」という態度で被災地に入ることは、被災地で暮らす人々にとって迷惑以外の何ものでもないのです。復興支援活動を行ったことが「結果として教育になった」とき、被災者の辛い経験は、他者の学びの素材となることによって他者への貢献へと繋がるのです。他者への貢献は、他者からの役割支持を得ることにつながり、肯定的自我概念の形成に寄与します。自己を肯定的に捉えることができるとき、人は幸福感を感じる。これは「活動理論」という社会学の理論が指摘していることでもあります。

このように、社会学とは「社会に役立つ学問」でありたいと、私は考えています。

(2) 先生が専攻されている、あるいは、この大学で学生に教えられている社会学とはどのような学問ですか。

社会学を学び実践するためには、まずは言葉(概念といってもよいでしょう)が必要となります。そのために、たくさんの読書が必要です。

それだけではありません。社会を知ることもまた、必要です。そのためには、社会調査という営みが役に立つでしょう。社会調査には、大別すると、量的な調査と質的な調査の二種類があります。いわゆるアンケート調査なるものが前者に相当し、インタビュー調査などが後者にあたります。ですが、社会調査の方法はそれだけではありません。描き出そうと考えている事象を捉えるために、最も相応しい方法を用いるべきなのです。

たとえば、文字を読んだり書いたりすることができない人々の生活を描き出すためにはどのような方法が必要でしょうか。質問紙が使えないのは言わずもがなです。調査者が前提としている生活とは異なる生活を営んでいる方ですから、インタビューで尋ねるべき項目も、見当がつきません。ではどうすればよいか。

Picture Voiceという手法が生み出されています。調査対象者の方にカメラを渡し、好きなように写真を撮ってもらい、撮影した写真について解説してもらうという方法です。調査対象者のまなざしと言葉で、彼ら・彼女らの生活を描き出そうという試みです。信頼性や妥当性をどう確保していくかという難しい問題は残りますが、チャレンジする意義のある試みだといえましょう。

社会学を学び実践するためには、対象となる社会を知る試み、すなわち社会調査が必要です。みなさんが描き出そうとしている社会を、よりよく(どういうことが"よい"ことなのかは、きちんと検討しなければなりませんが)描くための方法を、みなさんと一緒に考えたいと願っています。

(3) 1~2年次で読んで欲しい本

  1. 『あなたのTシャツはどこからきたのか?』(ピエトラ・リボリ 東洋経済新報社 2007) タイトルを見ただけで、興味をそそられると思います。この本のサブタイトルは「誰も書かなかったグローバリゼーションの真実」であり、Tシャツを素材として、国際政治と市場経済について論じています。経済学や政治学はどうも苦手・・・と思う方は、まずは本書を手にとってみることをお勧めします。
  2. 『ブリッジブック社会学[第2版]』(玉野和志 信山社 2016) 編者の玉野氏は、デュルケム、ヴェーバー、ジンメルの3人の理論で、現在の社会学をすべて語ることができる、と述べています。個人の意識を超えて外在する集合的な意識に注目したデュルケム。構造的な法則性に着目したヴェーバー。人びとの具体的な相互作用に目を向けたジンメル。この3人の社会学者の理論のいずれかに、現在の社会学の理論は連なっている。玉野氏はそう述べています。 また、社会学は奇抜な発想でもものの見方を変えるだけの教養としての学問ではないときっぱり述べ、「社会学とは、自らもその一員であるところの不特定多数の人々が、何を思い、何を願って、どう生きているかを明らかにしようとするものである。(p.236)」と述べています。社会学に対する玉野さんの考え方が、ビシビシ伝わってくる本です。とても刺激的で、いろいろと深く考えさせられる一冊です。
  3. 『予言がはずれるとき-この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』(フェスティンガー・リーケン・シャクター 勁草書房 1995) 「惑星からの予言、クラリオンが町を訪れる―洪水から逃れよ、12月21日に我々を襲う、外宇宙から郊外の住民に告ぐ」このような見出しの新聞記事を目にしたら皆さんはどう考えますか。ある社会学者はこれを絶好のチャンスだと考えました。このような予言ははずれることがわかっています。ということは、この予言を信ずるグループに参加してその瞬間を一緒に過ごせば、予言の失敗が起きる前、そのさなか、そしてその後に、そのグループがどのような考え方や行動を取るのかを直接観察する(参与観察法という社会調査の手法です)ことができるからです。予言がはずれたとき、何が起こったか。続きは、本をご覧ください。
  4. 『創造の方法学』(高根正昭 講談社現代新書 1979) 眺めることは、すぐに、誰にでもできます。しかしながら、観察することができるようになるためには、トレーニングが必要となります。眺めているだけでは、自らのものの見方や考え方を創り出すことはできません。知的創造に結び付けられるように眺めること。それが観察するということなのです。一体どうやって?疑問に思った方は、是非本書を手にとってみてください。日々目に映っている日常生活世界を観察し、自らのものの見方や考え方を構築するための方法が描かれています。
  5. 『直観でわかる数学』(畑村洋太郎 岩波書店 2004) 私は数学が苦手だから文系の学部に入りました。という学生さんは少なくありません(実は、学生さんだけではなく、教員にもそうおっしゃる方は少なくありません・・・)。数学が苦手という方は思い出してみてください。数学を学んだ頃、楽しく学んだという思い出がありますか?あまりないのではないかと思いますが、いかがでしょうか(私にも楽しい思い出はあまりありません)。ところが、この本を読むと、数学を学ぶのが楽しくなるのです。直観的に「わかる」ように数学を教えてくれるために、なんと数学を"楽しめ"ます。∑を見てアレルギー反応を起こす人にお勧めの本です。
  6. 『続 直観でわかる数学』(畑村洋太郎 岩波書店 2005) 『直観でわかる数学』の続編です。より高度な数学についての説明かと思いきや、そうではなく、四則演算の解説が中心となっています。「大学生が四則演算?」などと侮るなかれ。分数の割り算とはどのような概念なのか説明しなさい、と問われたら、ドキッとするでしょう。割り算には3つの意味があるけれども、説明できますか?と問われると、さらに焦るのではないでしょうか。基礎からきちんと理解すると、あれほど嫌いだった数学が好きになります。この本を読んでから、次に『直観でわかる数学』に進むとよいと思います。
  7. 『ガイドブック社会調査第2版』(森岡清志 日本評論社 2007) 社会で生起しているできごとを捉える営みが社会調査です。社会調査についてのテキストはいろいろありますが、この本の特徴は、調査の企画からデータ分析までを解説していることにあります。私も「統計の基礎―統計で調査をあきらめないために」という章を執筆いたしました。「社会統計学」という講義科目でお話しする内容をまとめてあります。
  8. 『地理情報システムの世界―GISで何ができるか』(矢野桂司 ニュートンプレス 1999) 社会学は社会を紙に書く仕事だと述べました。その仕事道具のひとつとして、近年GIS(Geographic Information System:地理情報システム)が仲間入りしました。この道具は、主に都市地理学や計量地理学の研究者によって開発されてきましたが、現在では、社会学、経済学をはじめ学際的に用いられています。またエリアマーケティングや行政サービスなどにも用いられています。GISで何ができるか。知っておいて損はないと思います。
  9. 『MANDARAとEXCELによる市民のためのGIS講座 第3版』(後藤真太郎他 古今書院2013) (8)を手に取った方は、是非、自分でもGISを使ってみたいと思うようになることでしょう。そういう方のために書かれたのがこの本です。ネット上からダウンロードさえすれば、無料で使用することができるGISソフトMANDARAのマニュアル本です(2013年に第3版が出版されました)。EXCELとMANDARAを使って地理情報システムという道具を手に入れましょう。(MANDARAは2004年度地理情報システム学会賞(ソフトウェア部門)を受賞しました。)
  10. 『よくわかる卒論の書き方』(白井利明・高橋一郎 ミネルヴァ書房 2008) 2年生の秋になると、ゼミの選択をしなければならなくなります。3年次の演習1を履修した後は、演習2、卒論演習と続いていきます。ということは、演習1の選択は卒論演習へとつながる大切な選択だということになります。したがって、1・2年生の間に卒業論文とはどのようなものかを、理解しておいた方がよいことになります。卒論とは何か、ゼミ選択とはどのようなことか。このあたりを、わかりやすく述べたのが本書です。参考になさってください。

(4) 3~4年次で読んで欲しい本

  1. 下流志向―学ばない子どもたち働かない若者たち』(内田樹 講談社文庫 2009) 「先生、この科目って何の役に立つのですか?」多くの学生さんから質問されます。ちょっと意地悪な対応ですが、「役に立つかどうかわからないのだったら学ばないのですか」と逆に質問することにしています。なぜか。たとえば、30㎝のものさしで体重は量れませんね。あなたの悲しみの深さだって、30㎝のものさしでは測れませんね。現在使えるある種のものさしで測ることができることの方が、ずっとずっと少ないのです。にもかかわらず私たちはなぜ、「役に立つかどうか」というものさしを振り回すようになってしまったのでしょうか。その背景を、この本は丁寧に解説してくれます。
  2. 『大都市郊外の変容と「協働」-<弱い専門システム>の構築に向けて』(大江守之・駒井正晶 慶応義塾大学出版 2008) 慶応義塾大学の大江守之(おおえ・もりゆき)先生グループの最新の研究成果をまとめた本です。大江先生は、1990年代以降明確になってきた戦後日本の家族システムの変容により、「新しい公共」を担うための仕組みとして「協働」が必要とされるようになっていることを指摘しています。この家族システムの変容は、大都市郊外で必然的に表出したことを、人口学的な分析によってあざやかに示してくれています(1章)。また、それを受け止めるための十分な共同性が大都市郊外に存在しなかったことを指摘したうえで、新しい仕組みとして<弱い専門システム>という新しいシステムを提案しています。
  3. 『差異と欲望―ブルデュー『ディスタンクシオン』を読む』(石井洋二郎 藤原書店 1993) 他者と同じであるという安心感は、同時に、同じでしかないという苛立ちへと容易に転化します。ディスタンクシオン(卓越性)というキーワードが、現代社会を理解するためのキーワードのひとつであると、フランスの社会学者のブルデューは主張しています。そのブルデューの『ディスタンクシオン』を読み解く試みが、この本です。
  4. 『「正義」を考えるー生きづらさと向き合う社会学』(大澤真幸 NHK出版 2011) 「正義」という概念については、サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』で触れた方も多いかと思います。そのサンデルの説も紹介しながら、サンデルが唱えるコミュニタリアンの考え方に異を唱えるのが本書です。大澤さんは、「固有の目的」が失われ、物語が消失した現代では、コミュニタリアンの主張は、残念ながら首肯できないと批判します.では、大澤さんの主張はどのようなものか。続きは、本書をご覧ください。
  5. 『社会学研究法―リアリティの捉え方』(今田高俊 有斐閣アルマ 2000) 社会学の研究の方法について、リアリティを捉え、描き出すための方法についての概説書です。統計帰納法、数理演繹法、意味解釈法という三つの方法についてバランスよく説明された本で、社会学の研究に着手する前に、是非一読しておくことをお勧めします。
  6. 『都市の社会学-社会がかたちをあらわすとき』(町村敬志・西澤晃彦 有斐閣アルマ 2000) 人間の本性が赤裸々に現れるのが、都市という社会です。社会全体が都市化している現在、そのような都市社会について学ぶことが、是非とも必要になっています。
  7. 『社会学』(長谷川公一、浜日出夫、藤村正之、町村敬志 有斐閣 2007) 社会学のテキストとしては、おそらくはじめて「空間と場所」を取り上げて論じています。移動や情報伝達の速さによって、空間とは乗り越えられるものだと考えられてきました。が、現実には空間は消滅しておらず、むしろ多様な空間イメージが噴出しています。そのような現状をどう分析するか。刺激的なテキストです。
  8. 『東京のローカル・コミュニティ-ある町の物語1900―80』(玉野和志 東京大学出版会 2005) 我々の目の前に広がる東京は、あまりに広く、あまりに雑多で、そこで暮らす人々の生活を捉えることは、なかなか困難です。その困難を乗り越えて、ある町で暮らす人々の生活を、都市の社会構造と関連付けて捉えた著作です。
  9. 『コミュニティ―グローバル化と社会理論の変容』(ジェラード・デランティ NTT出版 2007) 「コミュニティ」という言葉を聞くと、SNSを思い出す人が多いようですね。コミュニティとは社会学の専門用語であり、日常生活用語と同じ言葉を用いているのですが、意味は異なります。どのような意味なのでしょうか。都市社会学の中で、政治学の中で、どのように用いられてきたのか。現在いろいろなところで使われる、ヴァーチャル・コミュニティとはどのような概念なのか。丁寧に説明した著作です。
  10. 『改訂新版 フードデザート問題―無縁社会が生む「食の砂漠」』(岩間信之編 農林統計協会 2013) コース料理の最後に出てくるスイーツの研究では、もちろんありません。FoodDeserts問題、すなわち食の砂漠問題についての研究成果をまとめたのが本書です。生鮮食料品へのアクセスから排除されている人々が少なからず存在することを指摘し、なぜそのような問題が生じているか、今後どのようにその問題を乗り越えていけばよいかを検討しています。

(5) 先生の代表的な著書または論文を二つか三つ教えてください。

  1. 『東京大都市圏の空間形成とコミュニティ』(玉野和志・浅川達人編 古今書院 2009) 日本の都市社会学が蓄積してきた社会地区分析・社会地図と、コミュニティスタディを架橋した、国内初の研究プロジェクトの研究成果をまとめた本です。東京大都市圏の社会・空間構造がどのように形成されてきたのか。それぞれのローカル・コミュニティにおいて、それぞれの空間がどのように生きられているか、すなわち社会・空間構造と住民生活における社会的世界の展開との関連について、4部19章構成で描かれています。
  2. 「生きる意味を回復するために−対人援助を社会学的に読み解く−」『明治学院大学社会学・社会福祉学研究』133号pp. 159-170(2010) 対人援助という概念を広く捉えると、その活動は、福祉や医療に限られず教育活動も含まれることになります。そのような広義の対人援助活動に携わっている人々が、その活動を熱心に行えば行うほど、自身が生きる意味を見失ってゆくという現象が、じわじわと広がっています。そのような現象がなぜ生じているのか。どうすればそれを防ぐことができるのか。社会学の立場から考えたのが、本論文です。
  3. 「『実験室』としての津波被災地ー災害リスクはコミュニティに共同性を創出し得るかー」『研究所年報』46号(2016) 東日本大震災から間もなく5年が経とうとしています。私は,被災地のひとつである岩手県大槌町吉里吉里に,2011年4月以来毎月のように足を運び続けてきました。この5年間の参与観察に基づき,津波によって少なくとも一時的に破壊されてしまったコミュニティの共同性が,今日までの復旧・復興過程において回復できているのか,また今後維持できるのかについて論じました。