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半澤 誠司 准教授(専攻 文化産業・経済地理学)

(1) 社会学とはどのような学問とお考えですか。

読んで字のごとく、「社会」を研究対象として、その仕組みを解明する学問であるのは間違いありません。けれども、究極のところでは、その研究対象は「人間」であり、人間を理解するための手掛かりの1つであると考えています。

もちろん、人間は1人々々千差万別ですし、複数の人々を安易に類型化してはいけません。身近な例でいっても、「近頃の若い者は~」だとか、「男(女)は~」というような言い方で自分を特徴づけられて、愉快な気分になる人はまずいないでしょう。しかし、個人差はあれど、人間が自らの属する社会や環境から何らかの影響を受け、多かれ少なかれ人格や行動が左右されるのもまた事実です。

あくまでも、人間を理解するための1要素に過ぎませんから、ある人の社会的背景を元にその全人格を判断するようなことは厳に慎まねばなりませんが、自分を振り返った時に、周りから何の影響も受けなかったと断言できる人はいないでしょう。そして、同じような社会的背景を持つ人々の行動や考え方には、往々にして統計的な共通点がみられます。そこから、ではその社会とは何なのか、なぜ人間にそのような影響を与えるのか、といった疑問が浮かび、社会学的な研究に繋がります。

社会学の研究を専門にしないでも、社会学から得られた知見を知っていれば、自分の感じ方や考え方が世の中の標準とは限らないし、自分とは大きく異なる感じ方や考え方をした人にも、それなりの理由がある、といった心構えが培われるかと思います。それは、謙虚さと寛容性にも繋がり、人間関係を豊かにするでしょう。

また、世の中の価値観のほとんどが絶対的なものでは無く、社会的な営みの中で作り上げられてきたことも理解できるでしょう。ただそれは、安易な相対主義に陥る道ではありません。価値観は、何かの判断を下そうと思えば基準として必ず必要になる上に、それが重大な問題であればあるほど一層あてはまるものであり、様々な社会的制約の中で、その時代その地域の人が、より良く生きようとして作り上げてきたものです。たとえある種の価値観に基づいた判断とその結果が、後の世・別の地域からみれば理解しがたかったり愚しくみえたりしたとしても、安易な断罪はできません。むしろ、そういった営みを知ることで、皆さん自身の価値観を磨き上げて、自らの限界を知りつつも、最善を尽くして悔いの残らない良い判断をしていって欲しいと思います。大袈裟にいえば、判断の積み重ねこそが人生であるため、判断力こそが生きる力の源泉ともいえます。

したがって、人間の相互理解と判断力の育成に資する学問、それが社会学です。社会学、というよりも文系学問全般が何の役に立つのか分からないと揶揄されますが、要は使い方です。

 

(2) 先生が専攻されている、あるいは、この大学で学生に教えられている社会学とはどのような学問ですか。

コンテンツ産業、社会学では伝統的に文化産業と呼ばれる、産業群を研究しています。映像、音楽、ゲーム、出版などの、文化的要素を商品とする産業と思って下さい。私自身の関心は、特に企業間取引関係と労働市場、および企業の地域的な集中にあります。つまり、文化産業の文化的側面よりも、経済的側面に関心を持っています。俗な言い方をすれば、文化をどう商売にするか、が研究関心です。また、ここから派生して、中小企業の下請け関係や、企業のイノベーション活動といった分野にも関心を持っています。

ただ社会学では、伝統的に文化的側面への関心が高く、研究蓄積も多いです。そのため、授業では文化産業の文化的側面を強調した研究の紹介も1つの軸となっています。

私の研究で強調したいのは、新しいことを産み出すために必要な諸々に迫れる点です。文化的商品は、一般に独創性に高い評価が与えられますが、実際は独創性の評価基準が人の主観に基づいているため、後世で評価が高まったり、逆に低くなったり、などもざらにあります。また、あんまり独創性が過ぎると、世の人が拒絶反応を示して、商売としては失敗したりと、どうにも複雑怪奇な側面が多々あります。そのせいか、伝統はあるのですが、研究蓄積も相対的に少なめな分野です。そのため、新しいものを産み出すために必要な社会的条件は何だろうという、これまた割と新しい (経営学などの分野ではそれ程新しい話ではありませんが)課題に取り組める面白さがあります。

(3) 1~2年次で読んで欲しい本

  1. 『豊饒の海 4部作』(三島由紀夫 新潮社 1977~1978) 色々な読み方のできる小説で、受け取る含意は人それぞれでしょう。個人的には青春小説でもあり、若さが持つ神秘性とその軽薄さを描きながらも、最後は平凡な現実や人間を受け止める人間賛歌でもある、と私は感じました。若さを謳歌している学生のうちにこそ1回は読んでおくと、後で読み返した時の感慨が深いでしょう。
  2. 『ローマ人の物語 1~15巻』(塩野七生 新潮社 1992~2006) 日本はもちろん海外の歴史や地理に関して、学生のうちに一定の知識を学んでもらいたいと思っていますが、それは悪い受験勉強のような丸暗記をしろということではありません。色々な時代や地域で、そこに生きた人達に関心を持ってもらいたいからであり、それがひいては皆さんが接する人達への関心を高め理解を深めるからです。大著ですが、文体はすこぶる平易であり、題名の通り「物語」として読めますので、読み進むのが苦痛にはならないと思います。
  3. 『教養主義の没落』(竹内洋 中央公論新社 2003) 近頃の学生が本を読まなくなったといわれるようになって久しいですが、では昔の学生が純粋な気持ちで読書をしていたかというと、そうでもない。かつての教養主義の本質に迫る本ですが、これをきっかけに改めて読書の意味を考えて欲しいと思います。
  4. 『階級都市-格差が街を侵食する』(橋本健二 文藝春秋 2011) 東京23区とはいっても、地域によって居住者の階層は大きく異なります。そうした地域性の違いを、街歩き風に都市景観に注目しながら説明しています。意識して街を見回すと、その地域性が様々な形で都市景観に表れていますし、実際に社会の動きを肌で感じるのも大切なことです。本などで学んだことを体験すべく外に出てみて欲しいと思いますので、この本をガイドブックとして街を見て下さい。
  5. 『コンテンツ産業論-文化創造の経済・法・マネジメント』(河島伸子 ミネルヴァ書房 2009) 大学生向けの教科書として、コンテンツ産業を解説しています。特に経済面からみたコンテンツ産業にまつわる学問的話題を要領良くまとめると共に、代表的な各コンテンツ産業の特徴も扱っています。コンテンツ産業を理解したい初学者には最適です。
  6. 『フリー-〈無料〉からお金を生み出す新戦略』(クリス・アンダーソン NHK出版 2009) 本当はいけない事ですが、ネット経由で、本来有料のコンテンツをタダで手に入れた経験がある人は少なくないでしょう。しかし、コンテンツの作成にはお金がかかりますので、対価を受け取れない生産者にとってはたまったものではありません。そのため、必死で生産者は違法ダウンロードを防ごうとしています。しかし現実的には、技術が進歩していくために、消費者が簡単にタダでコンテンツを入手する流れは止まりそうにありません。このような状況下で、いっそタダである事を利用してお金儲けをするにはどうしたらいいかを論じた、世界的なベストセラーです。
  7. 『金と芸術-なぜアーティストは貧乏なのか』(ハンス・アビング グラムブックス 2007) お金の世界からは縁遠く存在しているかのごとくみえる、あるいはそのように位置づけられがちな、芸術という世界に働く経済的原理を、平易な言葉で語り尽くした本です。芸術には、確かに普通の経済とは異なる原理が働いているものの、数々の神話に彩られて実相が見えにくくなっています。これらの神話を丁寧はぎ取っており、大変に読みやすいです。
  8. 『コンテンツ産業論-混淆と伝播の日本型モデル』(出口弘・田中秀幸・小山友介 東京大学出版会 2009) 日本型のコンテンツ産業とは何かを、ハリウッド型モデルと対比しながら論じた本です。テーマが多岐に渡っているため、やや整理されていない印象もありますが、その分考えるための材料が豊富にあるともいえます。コンテンツ産業を様々な観点から考えるのに向いています。
  9. 『電波利権』(池田信夫 新潮社 2006) 日本のテレビ放送網がどのようにして形成されてきたかを、政治との関わりも踏まえながら、詳述しています。題名の通り、テレビ局が既得権益に胡坐をかき、健全な競争が行われていないことが、テレビ放送業を歪めていると、鋭く批判しています。テレビ局の力の源泉を知ることが出来るでしょう。
  10. 『作画汗まみれ 改訂最新版』(大塚康生 文藝春秋 2013) アニメ産業草創期から活動している、「ルパン3世」などの作画監督を務めた一流のアニメーターが、自らの半生と共に日本のアニメ産業の変遷を現場の目線から見た本です。現場の人が、ただの思い出話ではなく、できる限り客観的に資料的価値を持たせようという書き方をしている点も出色です。

(4) 3~4年次で読んで欲しい本

  1. 『ソフト・パワー-21世紀国際政治を制する見えざる力』(J,ナイ 日本経済新聞社 2004) 文化力が国力の源泉の1つであることを喝破しています。近年、日本政府がコンテンツ産業振興策に力を入れるようになった背景の1つが、この概念です。国が文化を支援する理由の一端が分かるでしょう。
  2. 『文化と固有価値の経済学』(池上淳 岩波出版 2003) 文化と経済の関係をどう捉えるかという問題について、文化経済学の立場から論じています。経済学が文化という概念にどのような態度で臨んできたか、また今後どう扱っていくべきなのか、といった概観が分かるでしょう。文化産業の分析に際して、経済よりも文化に重きを置く傾向が強い社会学とは、また一味違う考え方に触れられます。
  3. 『変貌する日本のコンテンツ産業ー 創造性と多様性の模索』(河島伸子・生稲史彦 ミネルヴァ書房 2013) コンテンツ産業にとって重要な「創造性」と「多様性」という概念を柱にして、それに影響を与えている要素の変化について、様々なコンテンツ産業を取り上げて検討しています。コンテンツ産業の単なる紹介に留まらず、平易に学問的分析を行っていますので、コンテンツ産業研究の一端がよく理解できます。
  4. 『ポピュラー音楽は誰が作るのか』(生明俊雄 勁草書房 2004) 音楽産業で長年働いていた著者が、日本の音楽史を社会学的に分析しています。修士論文なので、音楽産業研究の文献紹介も充実してるため、社会学が音楽産業をどのように研究してきたかが包括的に把握できます。視点や手法など、実際に自分が文化産業研究をする際に参考になるでしょう。
  5. 『現代演劇のフィールドワーク』(佐藤郁哉 東京大学出版会 1999) 現代演劇を事例に、文化と経済の幸福な関係はどこにあるのかという問題を社会学的に検討しています。題名の通り、著者は大学教員でありながら、実際の劇団活動にも参加し、良質なフィールドワークを行いながら研究をまとめています。文化産業研究本としても、フィールドワーク本としても読めます。
  6. 『第二の産業分水嶺』(M,ピオリ・C,セーブル 筑摩書房 1993) 日本の優秀な町工場や、先端的な製品開発に特化して急成長するベンチャー企業など、中小企業の強みは、今でこそ盛んに喧伝されるようになりましたが、一昔前はいずれ世の中の会社は大企業ばかりになり、中小企業はニッチな場所でしか生き残れないとの言説が幅を利かせていました。それに対して、今こそ中小企業の強みが発揮される時代だと主張した本です。原著は1984年の出版であり、日本やドイツの製造業の強さが遺憾なく発揮された時代でした。現代からみると突っ込みどころはありますが、世界中の産業研究の風向きを大きく変えた本です。
  7. 『戦略的アウトソーシングの進化』(西口敏弘 東京大学出版会 2000) 日本企業が下請けを多用するのは、低賃金労働力を使うためといった後ろ向きの理由ではなく、生産性や技術開発に強みがあるからだということを、豊富な実証から明らかにしています。昨今は、下請け苛めのように、大企業にとって単なる景気の調整弁として使われるような負のイメージが強まっていますが、そうではない積極的な側面がみられます。
  8. 『知識創造企業』(野中郁次郎・竹内弘高 東洋経済出版社 1996) 知識を上手く活用する仕組みを作り上げた企業こそが、継続的な製品の革新に成功して、競争力を高めていくことを明らかにし、世界中に影響を与えました。文化産業の製品は、その多くが正に知識が直接的に具現化したものであるため、文化産業における企業の営みを考える上で、是非とも抑えておきたい本です。文化産業を抜きにしても、知識とは何かが具体的に分かります。ここには挙げませんが、続編もありますので、より理論的に知識とは何かを知りたければ、そちらも読んでみるとよいでしょう。
  9. 『芸術崇拝の思想-政教分離とヨーロッパの新しい神』(松宮秀治 白水社 2008) 芸術がなぜ尊ばれるようになったのか、という過程をヨーロッパの宗教や政治の変化と結び付けて論じています。そもそも芸術が尊いものという概念自体が近代以降の産物なのですが、むしろ芸術に興味が無い人ほど知らない話かも知れません。芸術を事例にして、世の中の価値観が大きく変化していく過程の一例を理解できます。
  10. 『クリエイティブ資本論-新たな経済階級の台頭』(R,フロリダ ダイヤモンド社 2008) 第3次産業の時代であるといわれるようになって久しいですが、その実体は創造的な活動を行う集団の勃興であり、それらの人々を集めて活用する地域こそが、これからの時代に競争力を発揮すると主張しています。そして、それらの人材を引き付ける地域は、多様な生き方や考え方を許容する寛容性の高さが特徴であることを示しています。多様性を受け入れる寛容性の重要性が分かる本です。ここで論じられているのは地域レベルの話ですが、どれだけ多様な人と知り合ったかは人生の豊かさにも直結しますし、個人の生き方にも敷衍できる考え方ではないでしょうか。

(5) 先生の代表的な著書または論文を二つか三つ教えてください。

  1. 『コンテンツ産業とイノベーション-テレビ・アニメ・ゲーム産業の集積』勁草書房 2016 日本のコンテンツ産業と一口で語られがちですが、その内実は産業ごとに大きく異なること踏まえ、それぞれの競争力と地域はどのような関わりを持つのかを分析した本です。作品が生み出されていく裏側には、クリエイターの思いだけでは説明しきれない様々な社会的要素が影響していることが分かります。
  2. 『地域分析ハンドブック-Excelによる図表づくりの道具箱』ミネルヴァ書房 2015(武者忠彦・近藤章夫・濱田博之と共編著) 図表を使った論文やレポートを作成するときに、どうすれば綺麗に見えるのか、あるいはどんな図表表現があるのか、を説明した本です。地域に関わること以外の論文やレポートを作成するためにも、図表作成と表現技術を一から学べます。