明治学院大学社会学部MENU

石原 英樹 教授 (専攻 コミュニケーション論、文化社会学)

(1) 社会学とはどのような学問とお考えですか。

社会学とは何か。いちばん有名な答えは、近代社会が「わたし=近代社会とは何だろう」と自己観察(自分探し)をした学問が社会学である、というものでしょう。つまり社会学とは、政治学や経済学よりもずっとずっと遅く、近代社会が成立した19世紀以降の学問だということです(近代とはいつのことか、近代の次は何なのかなどは、一緒に勉強しましょう)。人々の集まりは人類の歴史が始まってからずっとありましたが、なぜその時代に社会学が生まれなかったのでしょう。なぜ19世紀以降なのでしょう。人が集まるだけでは社会ではないのでしょうか。ここに社会学(そして社会)の秘密があります。

さらに社会学がどのような近代特有の難問と出会ってきたのかを考えると、社会学の性質もより明確になります。ここでは三つ述べましょう。

まず社会学は、近代が獲得した「自由」の皮肉な帰結として「自由の不自由さ」を見出しました。宗教や階層や地域社会からの自由が生んだ新しい自殺(デュルケム)、自由なワイマール憲法が生んだナチス(フロム)、選択肢が多い消費社会における選択基準がない苦悩(リースマン)などです。

もう一つは、近代が獲得した「合理性」がもたらした「合理性のもつ非合理性」。人間を幸せにするはずの機械化や官僚化がもたらす逆機能(ヴェーバー)(フーコー)。

三つ目は、人間の衣装にすぎない役割や意味などが、実体よりも力をもってしまう「実体と意味の逆転」。例えば人は役割に動かされどんな残酷なことでもしてしまう(ミルグラム)。犯罪者というラベル貼りが犯罪者を作る(ベッカー)。ジェンダー論(フリーダン)もこれに入るでしょう。

これら近代特有のパラドックスについて社会学がどのように答えを出してきたのかを知るのが、てっとりばやい社会学の理解になると思います。

その他にも社会学は数多くの難題(ホッブズ問題、階級、エスニシティー、科学技術...)と取り組み続けています。最後に一つ。社会学とは、社会の単なる自分探しではなく、近代の切実な問題に対する社会の血みどろの自問だと思います。

 

(2) 先生が専攻されている、あるいは、この大学で学生に教えられている社会学とはどのような学問ですか。

私は新入り教員ですので、今まで研究してきたことを述べます。

私は(今にして思えば)数理社会学という領域で、コミュニケーションについていろいろ考えてきました。特に若者のメディア接触(マンガや音楽など)とコミュニケーションについて統計データで分析したのが初期の研究です。

その後、社会の基礎的なコミュニケーションについて考えるようになりました。これはゴフマン、トーマス・シェリング(経済学者)、デヴィッド・ルイス(哲学者)などを参考に、協力や秩序の背後にある、言語を用いないコミュニケーションの様態をゲーム理論という道具立てでモデル化しようとしたものです。

最近は、同性愛への寛容性とメディア接触の関係など、再び具体的な対象研究にもどっています。

(3) 1~2年次で読んで欲しい本

  1. 『自殺論』(エミル・デュルケム 中公文庫 1989) 先に述べた最重要テキストです。「ヴェーバーに比べて読みやすいでしょう」と先生に言われてそれを信じて読み切った思い出があります。
  2. 『孤独な群衆』(デヴィッド・リースマン他 みすず書房 1964) 1940~50年代の大衆社会論の古典。LONELY CROWDという魅力的なフレーズは、ボブディランが引用するほど有名。「内部指向型」「他人指向型」という教科書的な概念も素晴らしいのですが、後半のフランク・シナトラの「誠実さ」などサブカルチャー分析が面白い。
  3. 『出会い―相互行為の社会学』(アーヴィング・ゴッフマン 誠信書房 1985) コミュニケーション論の基本書といえば、ゴッフマンの本作。『行為と演技―日常生活における自己呈示』『スティグマ』も名著です。できればゴッフマンに影響を与えた『紛争の戦略』(トーマス・シェリング 勁草書房)も読んで欲しいです。ゲーム理論といわれる数理理論が、60年代以降の社会学に与えた密かな影響がわかります。
  4. 『近代日本の心情の歴史―流行歌の社会心理学』(見田宗介 岩波書店 2012) 戦後の社会学者の中でも特異な位置にある見田の初期研究。長らく絶版でしたが全集4に収録されました。明治から1960年代までの歌謡曲の歌詞から、民衆の意識変化を鮮やかに描きます。私は2のリースマンのポップス論と4の見田の歌謡曲論をもとにして、1960年代以降の音楽の分析をしたことがあります(『サブカルチャー神話解体』)。
  5. 『心でっかちな日本人―集団主義文化という幻想』(山岸俊男 ちくま文庫 2010)
  6. 『エロティック・キャピタル』(キャサリン・ハキム 共同通信社 2012)
  7. 『若者問題の社会学―視線と射程』(ロジャー・グッドマン他編 明石書店 2013)
  8. 『つながりっぱなしの日常を生きる―ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの』(ダナ・ボイド 草思社 2014)
  9. 『失われた場を探して―ロストジェネレーションの社会学』(メアリー・C・ブリントン NTT出版 2008)
  10. 『ダイバーシティ―生き方を学ぶ物語』(山口一男 東洋経済新報社 2008)
  11. ⑤~⑨は、どれも読みやすく、われわれの先入観をひっくりかえす社会学の醍醐味を味わえる本です。
    ⑤は社会心理学の大家による啓蒙書。日本独自といわれる集団主義を、固定的な文化ではなく、社会的な配置に過ぎないと実験例で明らかにしていきます。
    ⑥は文化資本(ブルデュー)、社会関係資本(パットナム)に加えて、「美貌」「好感度」も個人の資本であるという挑発的な議論。ジェンダー論とどのように折り合いをつけているか楽しんで読んでください。
    ⑦はオックスフォードのグッドマンは「帰国子女」「児童虐待」「民生委員」など、われわれが看過している日本社会のディテールに注目し、構築主義的に解きほぐし、全く新しい日本の光景をみせてくれます。
    ⑧はソーシャルメディアの研究で、「若者はソーシャルメディアに耽溺して日常のコミュニケーションから撤退している」という"通説"を覆します。
    ⑨は日本におけるフリーターやニートの増加の要因は、よくいわれるような個人の意欲や価値観の変化よりも、学校と企業のつながり(就職あっせん制度)の喪失にあるとします。
    ⑩『ダイバーシティ―生き方を学ぶ物語』(山口一男 東洋経済新報社 2008)
    世界でもっとも有名な社会学者の一人である山口氏の「自分と異なる他者と共生すること」の考察です。童話と劇という子供向きの構成ですが、高度な理論がいたるところに隠されています。

(4) 3~4年次で読んで欲しい本

  1. Erving Goffman, "Strategic Interaction", (University of Pennsylvania Press 1970). 翻訳が出ていませんが、ゴッフマンがゲーム理論を取り込み自分の理論を拡張した時期の重要作品。
  2. 『リーディングスネットワーク論―家族・コミュニティ・社会関係資本』(グラノベッター他 勁草書房 2006) 本学の野沢慎司先生が編んだネットワーク理論の傑作アンソロジー。グラノベッターは必読です。
  3. 『情熱としての愛―親密さのコード化』(ニクラス・ルーマン 木鐸社 2005)
  4. 『親密性の変容―近代社会におけるセクシュアリティ・愛情・エロティシズム』(アンソニー・ギデンズ 而立社 1995)
  5. ③と④は性愛的な「親密性」がキーワード。③は難解で知られるルーマンの中ではかなり読み物として面白い。彼のシステム論入門にもなります(『信頼』も読みやすい)。④は同性愛から家族の変容を見出す野心的な試み。1992年の著作なので同性愛の記述が古いことが唯一の欠点です。
  6. 『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』(ロバート・アクセルロッド ミネルヴァ書房 1998) ゲーム理論では最も知れた著作でしょう。信頼していない人々の間でどのように協力が生まれるのかを、「繰り返し囚人のジレンマ」に進化概念を加えて鮮やかに解き明かしています。ただしこの本は「ベルリンの壁崩壊以前」の世界観を反映しており、近年のゲーム理論を知りたければ、山岸俊男の著作を読むべきです。
  7. 『「ゲイコミュニティ」の社会学』(森山至貴 勁草書房 2012)
  8. 『カムアウトする親子:同性愛と家族の社会学』(三部倫子 御茶ノ水書房 2014)
  9. ⑥と⑦は性的マイノリティ研究の最新の水準を示したものです。
  10. 『現代家族の構造と変容―全国家族調査(NFRJ98)による計量分析』(渡辺秀樹他 東京大学出版会 2004)
  11. 『日本人の意識と行動―日本版総合的社会調査JGSSによる分析』(谷岡一郎他 東京大学出版会 2008)
  12. 『現代日本の「社会の心」:計量社会意識論』(吉川徹 有斐閣 2014)
  13. ⑧~⑩は、近年の日本社会分析のうち、公開されている個票データを用いているものを選びました。

(5) 先生の代表的な著書または論文を二つか三つ教えてください。

    【翻訳と著書】
  1. 『偶然を飼いならす』(イアン・ハッキング 木鐸社 1999) 翻訳です。「社会」という概念が統計データの収集から生まれてくる歴史的状況を、フーコーを思わせる筆致で描いています。実は優れた社会学史でもあります。
  2. 『増補 サブカルチャー神話解体―少女・音楽・マンガ・性の変容と現在』(宮台真司・石原英樹・大塚明子 ちくま文庫 2007)
  3. 『進化的意思決定』(石原英樹・金井雅之 朝倉書店 2002)
  4. 【論文】
  5. 石原英樹(2012)「日本における同性愛に対する寛容性の拡大―「世界価値観調査」から探るメカニズム―」『相関社会科学』22:23-42.