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渡辺 雅子 教授(専攻 宗教社会学)

(1) 社会学とはどのような学問とお考えですか。

社会学とは、さまざまな社会現象を社会構造や価値体系などと関連させて理解しようと試みる学問です。現在、社会をみまわせば、世界のみならず、日本の中においても多文化状況がみられます。こうした状況に直面して、果たして相互の理解は可能だろうかという問いに出会った時、まず、必要とされるのは、自分のもっている価値観を自明なものとするのではなく、いったん相対化するという作業です。私たちは社会の中で生まれ育っていく過程で、その社会のもつ価値観を多かれ少なかれ内面化していき、それを当然のことと思いがちです。例えば、日本社会では人と協調的であることが重要視され、一人だけ突出せず、自己主張もほどほどにしなければなりません。けれども別の社会ではより自立的な人間像が理想とされ、自己主張しない人はネガティブに受けとめられるかもしれません。社会関係の取り結び方も文化によって違います。同じ日本社会の中でも、世代によって考え方や行動様式が異なっていますが、なぜそうなのかを理解するためには、その人々が生きてきた時代や文化を学ぶことが必要です。

また、人々が主体的に決断して行っているようにみえる種々の出来事は、実は歴史や社会構造によって大きく規定されているのです。「社会学的想像力」をもつことによって、社会の出来事や、集団の出来事、個人の出来事が、あたかも謎解きのように展望できることもあります。社会学は、取り組んでいて興味がつきない学問です。

 

(2) 先生が専攻されている、あるいは、この大学で学生に教えられている社会学とはどのような学問ですか。

宗教社会学とは、宗教現象を社会学的に分析する学問で、分析のレベルには、個人、集団、社会等のさまざまなものがあります。日本人は無宗教と言われていますが、祭り、正月の初詣、神社への祈願行動、仏式の葬式など、年中行事や通過儀礼には宗教文化が練り込まれています。近年では癒しや巡礼がブームとなっています。また、伝統的宗教や民俗宗教ばかりでなく、新宗教といわれる宗教教団が少なからぬ信者を集めている状況もみられます。

宗教社会学が他の分野の社会学と異なっているのは、そこには宗教のもつ信念体系という独自の価値体系が存在することです。宗教社会学では、ある宗教は正しく、ある宗教は悪いとかいった価値判断は行いません。これを社会学者のマックス・ウェーバーの言葉を用いて述べるならば、「価値自由」と言います。それではなぜ人間は宗教にコミットするのでしょうか。入信することによって生き方はどのように変化するのでしょうか。また、宗教がブームになったり、忌避されたりする背景には、どのような時代背景や出来事があるのでしょうか。社会にとって宗教が果たしている機能とは、どのようなものでしょうか。宗教社会学では、こうしたさまざまな課題について、社会学的な視点から考えていきます。

マスコミでの宗教の取りあげられかたは事件性のあるもの、興味本位のもので、必ずしも綿密な取材がなされているものではありません。このような「消費される」宗教報道とは、学問としての宗教社会学はひと味も二味も違いますが、視点を変えれば、このような宗教報道それ自体も研究の対象となるのです。

(3) 1~2年次で読んで欲しい本

  1. 『自由からの逃走』(E・フロム 創元新社 1951) 人々は自由を獲得しようとしたが、それを得た時、今度は自由の重荷から逃れようとする。それは何故か。そして何が起こったか。
  2. 『孤独な群集』(D・リースマン みすず書房 1964) まわりと同じことをして、流行のファッションに身をつつむあなた。「みんなと同じ」ならば安心、それはリースマンのいう「他人志向型」になっているのです。
  3. 『タテ社会の人間関係』(中根千枝 講談社 1967) 日本社会の人間関係の原理。サークルの先輩後輩関係を考えるのにも役に立つかも。
  4. 『菊と刀』(R・ベネディクト 社会思想社 1967) 恥の文化と罪の文化。実は、この本は第二次世界大戦で、アメリカ人にとっては不可解な行動をとる日本兵を見て、日本文化を解明しようとしたもの。日本文化論の古典。
  5. 『日本の下層社会』(横山源之助 岩波文庫 1949) 明治以降の近代化の中で、色々な矛盾がわき出した。下層社会に自ら生活し続けたルポルタージュの古典。
  6. 『社会科学の方法』(大塚久雄 岩波新書) マックス・ウェーバー、マルクスの社会学方法論についての入門書。
  7. 『社会科学における人間』(大塚久雄 岩波新書) 社会科学において人間をどうとらえることができるかを主としてウェーバーの理論に依拠して分かり易く論じている。
  8. 『社会学的想像力』(C・W・ミルズ 紀伊国屋書房 1965) 自分だけの私的問題だと思っていたことが、実は社会にかかわる問題であったりする。地平を広げて想像力を持つと社会が見えて来る。
  9. 『ラ・ビーダ』(オスカー・ルイス みすず書房 1970) ラビーダとは人生を意味する。アメリカに住むプエルトリコ人家族の生活史の中から、「貧困の文化」を追及し、そこに生活する人々の生き生きとした人生が語られている。
  10. 『死にがいの喪失』(井上俊 筑摩書房 1973) 若者、あそび、愛と性、大衆文化と大衆社会により構成。「死にがい」を失ったとき、「生きがい」もまたなくなっていくのであろうか。

(4) 3~4年次で読んで欲しい本

  1. 『シャドウ・ワーク』(I・イリイチ 岩波書店 1982) 産業化に伴って生じてきた「シャドウ・ワーク」。そのひな型を女性の家事労働に求める。ジェンダー・平和等の問題を考えるにあたって示唆的な書。
  2. 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(M・ウェーバー 岩波文庫 1962) 宗教の持つエートスが社会変動を生み出す様相をプロテスタンティズムと資本主義の発生に関して論じる社会学の古典。
  3. 『社会理論と社会構造』(R・マートン みすず書房 1961) 中範囲の理論を提唱するマートンは、準拠集団論、予言の自己成就など、理論と経験的データとの関係の中で論じる。理論と実証を考えるにあたって興味深い著作である。
  4. 『価値の社会学』(作田啓一 岩波書店 1972) 社会的価値の理論的考察から、日本文化に内在する価値体系の具体的考察にまで及ぶ。
  5. 『スティグマの社会学』(A・ゴッフマン せりか書房 1980) マイナスのレッテルをスティグマとよぶが、人と人との関係においてスティグマのラベリングがどのような社会的意味を持つか。
  6. 『出口なお』(安丸良夫 朝日新聞社 1977) 明治、大正と進む日本の近代化の中で、その矛盾を「神がかり」を通して体現し、「世直し」思想を展開した女性教祖の生活史。
  7. 『聖なる天蓋―神聖世界の社会学―』(P・L・バーガー 新曜社 1979) 世俗化の過程で人間は社会全体を秩序づけ解釈する枠組としての宗教を失ってしまい、宗教はラディカルに個人化された宗教性という新しい形態に変化した。
  8. 『大正デモクラシーの底流』(鹿野政直 NHKブックス 1973) 明治以降の近代化政策の中での人々の心の行方を宗教、青年団運動、大衆文学の思想から考察した。
  9. 『シンボリック相互作用論』(船津衛 恒星社厚生閣 1976) 人間は事態のもつ意味についても反応し、自己形成をしていく。人と人とのシンボリックな相互作用について言及した書。
  10. 『日本人の病気観―象徴人類学的考察』(大貫恵美子 岩波書店 1985) なぜ日本人は家に入るとき靴を脱ぐのか、なぜ日本人はしきりに病気や体調のことを話題にするのか、神社や寺院での祈願など外国人にとって不可思議な出来事が解明されている。これはまた私達の文化を相対化して眺めることにもつながる。

(5) 先生の代表的な著書または論文を二つか三つ教えてください。

  1. 『共同研究 出稼ぎ日系ブラジル人 (上)論文篇 就労と生活、(下)資料篇 体験と意識』(渡辺雅子編著 明石書店 1995) 1980年の後半から、日系人がデカセギに来日するようになりました。この本は1990年に入管法が改正され、日系ブラジル人のデカセギが大量化するようになった時期に行なった調査結果から構成されています。「出稼ぎ」をめぐる状況とその変化を、労働・生活・教育など多様な側面から考察し、送出側ブラジルの実情も現地調査にもとづき検討しています。
  2. ②『ブラジル日系新宗教の展開――異文化布教の課題と実践』(渡辺雅子著 東信堂 2001) ブラジルには140万人の日系人がおり、多くの日本の新宗教が進出しています。いずれの宗教もまず日系人を対象に布教しますが、日系のエスニックグループを超えて非日系人の間に広く浸透したものと、日系の枠を超えられなかったものがあります。本書では日系人主体の新宗教として、大本、金光教、立正佼成会を、非日系人に拡大した新宗教として、世界救世教、霊友会、創価学会、そして、ブラジルで日本人霊能者によってはじめられた稲荷会を取り上げています。13年間にわたり、ブラジルで延300日を越えるフィールドワークを行い、聞き取りを重ね、足で歩いて得た資料がもとになっています。
  3. ③『現代日本新宗教論――入信過程と自己形成の視点から』(渡辺雅子著 御茶の水書房 2007) 人はどのようにして新宗教に入信するのか、入信することによってどのようなに生き方が変わるのか、という問題意識のもと、第Ⅰ部は入信の過程に焦点をあて、立正佼成会、大本、天照皇大神宮教等を取り上げています。第Ⅱ部では女性の自己形成に焦点をあて、霊友会、妙智会、金光教の女性教祖や女性信者の自己形成の問題を扱っています。Ⅲ部は新霊性運動に位置づけられる浜松市の女性霊能者を中心とする自生会を多角的な面から考察しています。これらの論考は綿密な質的調査にもとづいていることが特徴です。