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藤川 賢 教授(専攻 環境社会学)

(1) 社会学とはどのような学問とお考えですか。

社会学とは何かという問は難しいのですが、「社会」の学問という意味では、次のような特徴があるように思います。一つは扱う対象が社会的であることです。社会学は、ものではなく、社会関係や社会意識のなかで行われる「行為」の様式や意味、規則性などを考察の対象にすることが多いようです。ものを論じるときにも、背後にある意味を考えようとします。

第二に、法学や経済学などと比べて特徴的なのは、説明の方法が社会的だということです。社会学では、法律や経済法則といった基準に従って対象を分析したり判断したりすることは少なく、それらでは説明のつかないことを、しかし、社会のなかで合理的に理解できるものとして説明することをめざすものだと考えられます。正解よりも最善を求める学問と言えるかもしれません。

したがって、第三に、社会学には「社会のなかでの学問」という特徴があると思います。これは基本的にはすべての科学に共通することですが、社会学ではとくに、あらゆる理論や説明の基盤として、社会の存在が必要になります。また、社会のためにという意識も強くなります。現実との係わりが意識され、社会的な実践に資するという面が強まると思います。

とは言え、社会の範囲や定義は初めに決められたものではなく、行為や考察のなかで出てくるものです。社会に係わるというのは、直接的な意味でのことだけではありません。実際に社会学の勉強を続けるなかでは、社会の範囲をそれまでの常識からいかに広げていくかということも重要な要素になるのではないでしょうか。

(2) 先生が専攻されている、あるいは、この大学で学生に教えられている社会学とはどのような学問ですか。

自然環境という言葉で示されるように、長い間、環境に関する諸々の事象を扱うのは自然科学の領域であるとされてきました。しかし、今日では、環境問題に関する多くの社会科学の研究が進められています。それは、環境に関する世界的な関心が高まったことと、環境問題の解決のためには科学技術の発達を待つだけでは不可能だという認識が広まったことによるものだと思います。

自然環境に関することでも、それが社会的な事柄としてあらわれてくるときには、多くの社会的行為、社会関係、社会的背景などが係わってきます。地球温暖化といった地球規模の問題でも、その被害の様子や責任のあり方は国や地域によって大きく違いますし、問題解決に向けて日常生活における実際の行動を変えていくためにはどうすればよいのかを考えることも重要です。

たとえばゴミについてみると、都会で出たゴミが過疎地や遠くの地方で問題を起こすのはなぜか、汚染による問題が起きたときに地域にはどのような被害が生じ、どのように拡がっていくのか、それらの地域の人たちは問題解決に向けてどのような活動を行っているのか、その人たちの主張はどうすれば都会の人たちの耳に届き、分かってもらえるのか、それに対してゴミを作り出している企業や消費者にはどういう係わり方が可能なのか、といったことなどが、社会的な課題として浮かび上がってきます。

社会学では、それらについて、実際に被害を受けた人や解決に向けた活動を行っている人たちや行政、企業などの動きや考えを学びながら、ある意味ではそれらの人たちとともに、考えていこうとします。とくに、様々な意味で弱い立場の人たち、被害を集中して受ける人たちの声に留意し、社会的公正の実現をめざすことは社会学的研究の目標の一つだと言えるでしょう。

ただし、それは一つの立場に深く根ざすという意味ではありません。環境に関する問題は、離れた地域、外国、あるいは未来の世代などとの深い関連を持っています。一見すると遠い世界について学び、視野を広げ、自分たちの社会とは何かについて考え直すことも、社会学による研究の意義を深めることだと考えられます。

(3) 1~2年次で読んで欲しい本

  1. 『日本の下層社会』(横山源之助 岩波文庫 1949) 日本の社会調査およびルポルタージュの古典です。難しいものではありませんし、悲惨さが強調されたようなものでもありません。視点や方法など現代に役立つ部分も多いと思います。
  2. 『忘れられた日本人』(宮本常一 岩波文庫 1984) 遠い土地を旅しながら、時間をかけてそこにすむ人たちの話を聴いていった、民俗学調査の記録です。登場する人々が魅力的に感じられます。
  3. 『須恵村の女たち』(R・スミス、E・ウィスウェル 御茶の水書房 1987) 昭和11年頃の熊本県の一農村に一年間暮らして書かれた、アメリカ人女性による女性たちの話です。戦前の社会について、日本について、農村について、女性についての常識をくつがえす力を持った本でもあると思います。
  4. 『戦時期日本の精神史』(鶴見俊輔 岩波書店 1991) 1931年から45年という独特の時期をあつかった日本思想史の代表的著作の一つであると同時に、思想と社会の緊張関係に関する考察としても意味深いものだと思います。
  5. 『都市と農村』(柳田国男 ちくま文庫『柳田国男全集29』1991他に所収) 柳田国男は、ぜひ読んでもらいたい著者の一人です。『遠野物語』も有名ですが、こちらは文学的な色彩が強いので社会科学的な視点からはかえって読みにくいかもしれません。そういう点では「都市と農村」は講演記録をもとにしていることもあって比較的文脈を追いやすく、歴史的視野から地域を考える方法について学ぶには分かりやすいものだと思います。
  6. 『ストリート・コーナー・ソサイエティ』(W・ホワイト 垣内出版 1974) 若い社会学者が、町の若いギャング集団に加わってその社会関係について記した本です。グループ内での地位が低い少年はボウリングでも高得点をとれないのはなぜか、といった考察は具体的で、読みやすくおもしろいものとしてもおすすめできます。
  7. 『沈黙の春』(R・カーソン 新潮文庫 1992) 大量の農薬の結果として鳥の声のしない春が来るかもしれない。環境問題への警鐘を鳴らしたものとして有名な本です。
  8. 『環境社会学のすすめ』(飯島伸子 丸善ライブラリ 1995) 環境社会学とはどういう学問なのか、環境問題と呼ばれるものとしては実際にどういうものがあるのか、それについて学ぶにはどういう方法があるのか、といった点に関する入門書です。著者自身が行ってきた調査などの記録に基づいて書かれていますので、分かりやすく読めます。
  9. 『苦海浄土』(石牟礼道子 講談社文庫 1972) 水俣病に関するもっとも有名な本です。水俣病そのものについてというより被害を受ける人たちの、時には美しいと感じるような言葉や行動や生活の様子を語っています。ぜひ、読んでみてください。三部作の続編にあたる第二部『神々の村』、第三部『点の魚』も単行本や全集で出ています。
  10. 『カドミウム被害百年 回顧と展望』(松波淳一 桂書房 2008) 有名な割に知られていないイタイイタイ病問題について歴史から現在までを網羅した一冊です。イタイイタイ病弁護団で中心的な役割を果たした著者は2002年に本書の初版にあたる『イタイイタイ病の記憶』を出しましたが、最新版はその3倍くらいの厚さになっています。その増補分の多くは、今なおイタイイタイ病が問題を抱えている現状にかかわるものです。

(4) 3~4年次で読んで欲しい本

  1. 『社会理論と社会構造』(ロバート・K・マートン みすず書房1961) パーソンズと並ぶアメリカ社会学理論の代表的人物による代表作です。通読するのはたいへんかもしれませんが、「中範囲の理論」「自己成就的予言」など聞き覚えのある項目を拾い読みするだけでも伝わってくるものは少なくないはずです。手に取るだけでも、その価値はあると思います。
  2. 『社会学の根本問題』(G・ジンメル 岩波文庫 1979) 社会学とは何か、という問に関する古典です。やや哲学的な内容ではありますが、とくに第一章は前提となる知識などがなくても理解しやすいと思います。
  3. 『経済学・哲学草稿』(K・マルクス 岩波文庫 1964) マルクスの初期の著作です。マルクスの理論を追うという以上に、社会科学を学ぶことの意味を考えていく上で参考になる本ではないでしょうか。
  4. 『19世紀の思想動向』(G・H・ミード いなほ書房 1992) アメリカのプラグマティズム社会学者の代表的人物の一人であるミードの講義録です。近代哲学の解説ですが、科学や哲学の流れを産業革命や市民社会成立といった社会の動きの中で位置づけており、近代社会を理解する上でも役立つと思います。『近代西洋哲学の流れ』という題名で講談社学術文庫でも別訳があります(2010年末時点では品切れ中)。
  5. 『市民の科学をめざして』(高木仁三郎 朝日新聞社 1999) 著者は、新進気鋭の原子物理学者から、大学の職を辞して、原発について市民の立場で考えるための「原子力市民情報室」を立ち上げ、その活動に半生を捧げました。高木さんには入門書から専門書まで原子力に関する多数の著作がありますので、それらにも触れていただければうれしいです。本書は、そうした活動の末に高木さんが残したメッセージともいうべきもので、私たちの生活と先端的な科学技術との関係を考え直すことを訴えています。
  6. 『脱原子力社会の選択・増補版』(長谷川公一 新曜社 2011) 原子力発電かロウソクの生活か、という単純な二者択一ではなく、原子力発電への依存を弱めていくことが実際にどのように可能なのかを、社会学の立場から明らかにした本です。世界各国の原子力事情の比較や欧米におけるソフトエネルギー推進の動きなどについても具体的に書かれています。1996年に出版されていましたが、2011年の増補版では福島事故後の動きについても詳しい議論があります。また、同じ著者の『脱原子力社会へ』(岩波新書)もこれからのエネルギー政策を考える上で必読というべきほんの一つです。
  7. 『再帰的近代化』(ギディンズ、ラッシュ、ベック 而立書房 1997) ギディンズは、社会学の教科書でもおなじみの有名な社会学者です。ベックはリスク社会論の提唱者として知られ、ラッシュにも近代性に関する多くの著作があります。本書は、3人が議論しあうような形式の論文で現代を論じようとしたものです。近代的理性を重んじる著者たちの姿勢には賛否があるでしょうが、現代社会を大きな視点で論じる一例として大いに参考になると思われます。
  8. 『自由と経済開発』(アマルティア・セン 日本経済新聞社 2000) 数多いセンの著作の中でも、もっとも読みやすく、また、貧困や不平等のことを広く考えるのに適しているように思います。基本的なテーマは南北問題のような国家の格差や政策ですが、発展や格差や豊かさなどへの幅広い関心に応えてくれる一冊です。
  9. 『脱「開発」の時代』(ザックス編 晶文社 1996) 副題は「現代社会を解読するキイワード辞典」で、「開発」「環境」「平等」「援助」「市場」など19のテーマについて、9カ国17人の筆者が書いています。たとえば「発展=開発」という言葉が「途上国=低開発国」という発想とともに生み出されてきた経緯などへの記述は、知識を得るためというより、考えるための手がかりになるのではないでしょうか。知識や理論の上に立ってではなく、目の前にあって共有できる現実から議論を始める方法を教えてくれるようです。
  10. 『データ対話型理論の発見』(グレイザー、ストラウス 新曜社 1996) 調査データから普遍的な「フォーマル理論」を生み出すにはどうすればいいのか、というのが本書のテーマです。原書の出版は1967年ですが、現代に通用する鋭い指摘を持っていると思います。とくに、質的な調査によって何らかの新しい考察を求めている人には触れてもらいたい一冊です。 

(5) 先生の代表的な著書または論文を二つか三つ教えてください。

  1. 「産業廃棄物問題」(舩橋晴俊編『講座環境社会学』2巻 2001 有斐閣 235~259頁)
  2. 「産業廃棄物をめぐる地域格差と地方自治」(飯島伸子編著『廃棄物問題の環境社会学的研究』2001 東京都立大学出版会 33~60頁)
  3. 「公害被害放置の社会学」(飯島伸子・渡辺伸一・藤川賢著 2007 東信堂 372頁)