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北川 清一 (担当科目:ソーシャルワーク2)

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専門領域あるいは担当科目の紹介

ソーシャルワーク2A・B

グループを媒介に社会福祉の立場から取り組む支援活動の場面で、社会福祉専門職(ソーシャルワーカー:社会福祉士)が駆使する道具箱の一つにグループワークと呼ばれる(対人)援助技術があります。私が担当する授業科目(「ソーシャルワーク2A」「ソーシャルワーク2B」各2単位)で講じる主題は「グループを媒介に展開するソーシャルワークの理論と実際」です。

ところで、社会福祉専門職からの支援を必要としたり、利用したりしながら暮らす人々の生活実態は、いわゆる「生活の困窮」を扱う伝統的な生活問題に関する理論との関連で説明するには難しい広がりを見せています。その実態の中には、日々の暮らしの「質」の向上と「快適性」の確保、「生き甲斐」の実現を願う人々が実在しています。社会福祉からの支援活動は、「生活の困窮」という切り口にとどまらず、このような願いがかなえられにくい状況に置かれている人々ともどのように向き合うかが問われる社会援助的概念といえましょう。したがって、社会福祉専門職は、一人ひとりが全く異なる形態をとる暮らしの状況に応じて、多様な戦略を打ち立てながら、人間の尊厳の確保にも連なるような願いをいかにかなえるかについて、利用者と共に模索することが求められているのです。

現代社会を「当事者の時代」といいます。社会福祉専門職の実践は、これまでの「指導する」「援助する」「処遇する」と呼んできた活動から、利用者の「参加」を促すかかわり、すなわち利用者が「支援となる」ことを実感されるような活動へと変化するよう求められています。新しい時代における社会福祉専門職による支援活動とは何か、これを利用しながら暮らす人々とのパートナーシップをどのように構築すべきかを考えることは、すぐれて社会的科学的な思考を基盤とする研究課題なのです。

私達人間は、一人ひとりが独立した存在として生活を営んでいます。しかし、他の人と何らかの関係を形成することなしに、その営みを継続することもできない存在なのです。そのため、人間としての基本的かつ社会的な欲求は、各人が自らの生涯を通じて遭遇する多様な形態からなる人間関係あるいは集団の中で充足されたり、されなかったりする現実があります。そして、その経験は、個々人の生活のあり様に多大な影響を及ぼしています。

社会福祉専門職は、現代社会の中で、場合によっては、肩をひそめ、たたずむように生きる利用者が抱える生活上の問題や課題の解消に向け、十分に「支援となる」参与の方法について、「歩み」ながら「考える」ことになります。そのような目標に向けて仕事を進める際、個別に支援をすることが有効な場合もあります。また、時には集団が持つ力~集団構成員が何らかの形で相互に影響し合う関係のことをいう~を有効に活用することにより、構成員だけではなく集団そのものも変化・成長し、問題解決に役立つ過程をたどることもあります。後者の場合が、担当科目の中で取り上げる学習課題です。

社会福祉の利用者も、当然のことながら、集団と一定の関係を保ち、あるいは集団の態様をとって日々の生活を営んでいます。したがって、集団の持つ力を無視した社会福祉専門職の実践はありえないことになります。むしろ、社会福祉専門職には、支援の過程で集団の持つ力を有効に活用することが求められている場合が多いといえましょう。そのため、集団活動とか、集団そのものへの対応は、我々にとって極めて日常的な経験の範囲にあるものといえるかも知れません。それ故、社会福祉専門職でさえ、集団を扱ったり、集団を支援する場面に立たされた時、とかく日常生活の経験から得た常識的な知識を手がかりに判断したり、そこで培われた慣れや勘にしたがって対処しがちになることもあります。

もし、社会福祉専門職の実践が、常識や慣れ・勘にしたがって対処できるものであるならば、「グループワーク」に関する理論と実践を大学で学ぶ必要はないことになります。集団には、一人ひとりの集団構成員に影響を与え、良い方向にも、また、悪い方向にも変えてしまう力が潜んでいます。また、個人が集団を変える力の源になる場合もあります。さらに、集団は、自らが置かれている環境や社会に働きかけ、その構造を改革する力も持ち合わせています。すると、社会福祉専門職には、社会福祉制度が掲げる理念や目標にしたがって集団の力を活用する責任があると考えるべきでしょう。しかも、それは、決して常識的な対応を意味することにはなりません。

そこで、授業では、以下の点を中心に講義を展開することにします。

  1. 集団構成員一人ひとりに相応しい個別プログラムを設定し、それを集団状況の中でどのように機能させるかを検討します。
  2. そのような作業を社会福祉専門職として行う意味を、「脱構築(deconstruction)」の視点に立ち、「ストレングス」「エンパワメント」「ナラティヴ(語り)」アプローチと関連させながら検討します。
  3. 社会福祉専門職としてのアイデンティティとの照合を図るとともに、その照合過程で自ら決断した事項と社会福祉実践の大義(cause or mission)との整合性を検討し、妥当性を吟味します。
  4. 専門領域の理解を深めるための文献紹介

    1年生・2年生

    人間生活と集団(活動)、組織との関連性、および支援過程における対等・平等の人間関係のあり方を考える手がかりを、以下の本から得られるように読み込んで下さい。

    1. 中根千枝『タテ社会の人間関係~単一社会の理論~』講談社、1967年
    2. 星野一正『インフォームド・コンセント』丸善、1997年
    3. 福本博文『リビング・ウィルと尊厳死』集英社、2002年
    4. 久保紘章『エッセイ・人間へのまなざし』相川書房、2004年
    5. 遠田雄志『組織を変える〈常識〉~適応モデルで診断する~』中央公論新社、2005年

    3年生・4年生

    グループを媒介に展開するソーシャルワークの体系に興味と関心が持てた場合、下記にあげた本のどれをピックアップしても、新しい人間観、実践観、施設観を持てるようになるに違いありません。1の文献の著者G.コノプカは、この実践を「新しい挑戦」なる副題を付けて論述しています。その意味するところを感じ取り、読み取って欲しいと思います。

    1. G.コノプカ(福田垂穂訳)『収容施設のグループワーク』日本YMCA同盟、1967年
    2. K.E.リード(大利一雄訳)『グループワークの歴史~人格形成から社会的処遇へ~』勁草書房、1992年
    3. 久保紘章『セルフヘルプ・グループ』岩崎学術出版、1997年
    4. 野村豊子編『回想法とライフレビュー~その理論と技法~』中央法規出版、1998年
    5. 北川清一『ソーシャルワーク実践と面接技法~内省的思考の方法~』相川書房、2006年