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金成垣 (担当科目:社会政策論)

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専門領域あるいは担当科目の紹介

社会政策論

近年,ワーキング・プアやネットカフェ難民,ブラック企業や過労自殺などとかかわる貧困や失業,非正規雇用問題,また急進展している少子高齢化社会とそれにともなう健康,医療・介護,老後所得の問題等々,さまざまな福祉問題が,私たちの非常に身近なところであらわれています。このような今日の状況のなかにあって,これらの福祉問題をいかに捉えるか,そしてそれに対応するための社会政策をどう理解するかは,私たちの日常生活で欠かすことのできない重大な課題になっています。

以上のような状況をふまえて,社会政策論においては以下の諸点に重点をおいて講義を行っています。

第1に,貧困や失業,老齢や医療・介護など,私たちの身近な生活上の問題を単なる個人の問題ではなく,社会問題として捉えることの意義や意味を明らかにし,そしてその社会問題としての福祉問題を社会科学的に捉える思考力を身につけていくことをめざしています。そのためには,当然ながら,この分野における従来の研究成果の学習が重要となります。ヨーロッパの社会政策研究や社会行政研究あるいはアメリカの社会事業研究の成果はもちろん,日本で長い歴史をもつ社会保障・福祉研究,またマルクス経済学の影響の強い福祉国家研究など,国内外の多様な学問的伝統とその研究成果を積極的に取り入れて講義を展開しています。

第2に,福祉問題に対応するための社会政策について,身近に感じられる具体的な例を用いながら,基礎知識を習得させ今日的課題を理解するための講義を行っています。そのさい,さまざまな福祉問題の出現によって社会政策に重大な役割が求められている今日だからこそ,原点に立ち戻り「いったい社会政策とは何か,そもそも私たちの社会におけるその意義と役割は何か」といった古典的な議論が必要であると考えます。社会政策論においては,今日の状況とともに,資本主義の歴史のなかで,社会政策を構成する,雇用機会の提供や労働基本権の承認などの雇用保障政策(=「労働力の商品化」政策),公的扶助(救貧)や社会保険(防貧)などの社会保障政策(=「労働力の脱商品化」政策)がいかなる考え方のもとで展開され,いかなる役割を果たしてきたかといった原論的な議論をふまえた講義を行っています。それによって今日の問題や課題をより正確に判断することができると思われます。

第3に,以上の福祉問題と社会政策について,国際比較的な視点から日本の位置づけと特徴を把握することにも力を入れています。比較の視点は自らの姿をよりよく把握するための「鏡」となります。国際比較という「鏡」に照らしてみることによって,日本の歴史と現状,また問題と課題を知り,そして今後の政策的方向性を考えるための適切な視野をもつことができます。ただし,その比較の視点として,対象となる国々を同一線上で比較する「横の国際比較」だけでなく,それとともに,それぞれの国の歴史的文脈に着目した「縦の歴史比較」の重要性を強調しつつ講義を進めています。

第4に,日本における従来の比較研究の対象が主に欧米諸国であったことをふまえ,欧米諸国のみならずアジア諸国・地域にも目を向けた講義を展開しています。特に近年,アジアの多くの国・地域では,少子高齢化問題や失業・貧困問題など,日本と共通の福祉問題があらわれています。同時に,アジア域内でのカネ・モノ・ヒトの移動の増加にともない,共通の福祉問題へ対応するための共通の課題・解決策への積極的な取り組みが求められています。社会政策論の講義においては,私自身がこれまで日本を含むアジア域内で携わってきたさまざまな研究交流活動の経験を最大限に生かしながら,学問的なアプローチとともに,実践的なアプローチとして日本およびアジア各国の実務家との交流の場を積極的に設けようとしています。

専門領域の理解を深めるための文献紹介

  1. R. Mishra(1981)Society and Social Policy Palgrave
  2. C. Pierson/田中浩・神谷直樹訳(1996)『曲がり角にきた福祉国家』未来社。
  3. 武川正吾(1999)『社会政策のなかの現代』東京大学出版会。
  4. 宮本太郎(2008)『福祉政治』有斐閣。
  5. 田多英範編(2014)『世界はなぜ社会保障制度を創ったのか』ミネルヴァ書房。
  6. 金成垣(2016)『福祉国家の日韓比較』明石書店。
  7. D. Garland(2016)The Welfare State: A Very Short Introduction OUP Oxford.