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米澤 旦 (担当科目:社会起業論)

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専門領域あるいは担当科目の紹介

私は「社会起業論」という講義を担当しています。この講義で、中心的に対象とするのは、社会的企業(Social Enterprise)と呼ばれる事業体で、経済活動を通じて社会問題の解決を図る事業体のことを指します。2000年代以降、日本国内でも社会的企業が注目されることが増え、障害者就労支援や子育て支援など、様々な領域で、その成果が期待されるようになってきました。この講義では、社会的企業の経営や関連政策、社会的意義について扱います。

現代社会で社会的企業が注目される理由はどのようなものでしょうか。研究者のあいだで考えられている、その社会福祉的な背景は、生活にかかわる問題が多様化・普遍化していることと関連しています。これまで、社会問題は疾病、障害、失業、老齢など、定型的なリスクとしてあらわれる傾向が強く見られました。その場合、問題解決のための計画が立てやすく、政府が問題解決の担い手となり、集権的に問題解決を図ることが有効でした。しかし、現代では、社会問題は誰にまわりでも起こり、その内容も多様となる傾向が強まっています。その状況では、集権的な問題解決の仕組みには限界があります。そこで、政府は必ずしも前面に立たず、試行錯誤する民間事業体活動を支える黒子としての役割が強く求められるようになりました。社会的企業はその担い手の一つとして、個別的状況に対応しながら、持続的に問題解決を図れる仕組みとして注目されるようになりました。

現在では、社会的企業はマスメディアなどでとりあげられることも増えましたが、その際には、華々しく活動する場面が取り上げられる傾向にあります。しかし、実際に社会的企業の活動は、その裏側にある、とても地道で、目立たない活動に支えられています。また、経済的目的と社会的目的をどのようにバランスをもたせるか、どのように信頼を獲得するかなど多くの悩みを抱えながら活動しています。講義ではそのような社会的企業の工夫や葛藤をできるだけわかりやすく説明するように努めています。

専門領域の理解を深めるための文献紹介

  1. 須田木綿子,2001,『素顔のアメリカNPO――貧困と向き合った8年間』青木書店.
    アメリカの非営利組織は先進的で充実しているイメージがありますが、その実態は必ずしも輝かしいものばかりではありません。本書では、アメリカの非営利組織の実態について、著者本人の体験から説得的に描かれます(資金集めなど苦労している様子は印象的です)。
  2. 副田義也,2003,『あしなが運動と玉井義臣―歴史社会学的考察』岩波書店.
    日本の非営利組織の一つである「あしなが育英会」の活動の軌跡に関して、詳細にまとめられた良質なモノグラフです。
  3. 大野更紗,2012,『困ってるひと(ポプラ文庫)』ポプラ社.
    難病を患った大学院生による、病気になってから自立生活を始めるまでの体験記です。軽快な筆致で、日本の医療・福祉制度の問題点が鋭く描き出されます。
  4. 大沢真理,2011,『いまこそ考えたい生活保障のしくみ』岩波書店.
    生活保障を支える仕組みや現在の問題点を概観する一冊です。日本の社会保障、労働にかかわる制度の諸問題が分かりやすくまとめられています。

その他

現在の専門領域を選択した動機

非営利組織を研究するようになった理由は比較的単純で、学生時代、ある非営利組織(協同組合)にかかわっていたことがきっかけでした。所属していた団体は、ちょうど改革期で経済性を追求するのか、社会性を追求するのかで議論が盛んになされており、両者のバランスについて、どのように考えればいいのか考えるうちに、非営利組織論に関心を持つようになりました。当時はあまり意識的にテーマを選択したわけではなかったのですが、結果的には大変幸運な選択だったと考えています。