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ワーキングマザー(ジャーナリスト、企業家、国際協力専門家、生活保護ケースワーカー)から未来のワーキングマザー・ファーザー世代へ

社会福祉学科 明石留美子

 ゼミの女子学生に「これから結婚しても、子どもをもっても、ずっと働き続けますか?」と質問をしたことがあります。そのなかで確信をもって手を挙げた学生は一人だけでした。これが、私が女性の就労について研究を始めることになったきっかけです。先輩ワーキングマザーにそれぞれのワーク・ライフ・バランスについて聞いてみましょう。

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ガールズ・トークのスピーカー(前方左から)、ニュースキャスターの高雄美紀さん、企業家の眞野ナオミさん、生活保護ケースワーカーの田邊依充さん、国際協力専門家の原三佳さんと未来のワーキングマザーとファーザー


 少子高齢化が進み、労働力人口の減少が見込まれる日本では、 女性の労働参加が推進されています。また、平均余命(2015年は男性が80.79歳、女性が87.05歳 )もさらに延長していくことが予測されるなか、女性が就労を継続することは、女性自身のみならず、その家族の生活を長期的に豊かにしていくことにつながると思われます。
 しかし厚生労働省によると、2010年から2014年の間に、出産前に就業していた女性の46.9%が、第一子の出産を機に退職しています 。その理由として最も多かったのが「家事・育児に専念するため自発的にやめた」(29.0%)で、次いで「仕事を続けたかったが仕事と育児の両立の難しさでやめた」(25.2%)でした。女性にとって 仕事と育児の両立はそれほど難しいのでしょうか。

 こうした課題を先輩ワーキングマザーと話し合う「ガールズトーク:ワーク・ライフ・バランスのための世代間コーチング」を、1月28日、 明治学院大学で主催しました。日本初家庭内インターンシップ「ワーク&ライフインターン」などの事業に取り組むスリール株式会社の協賛を得て、4人の現役ワーキングマザーと次世代のワーキングマザー、ファーザーをつなぐトーク・セッションというユニークなイベントです。
 今回のトーク・セッションでは、初めに筆者が、フルタイム・ワーカーとパートタイムワーカーの均等待遇を実現しているオランダでの調査をもとに、「女性が働くということ」について発表しました。続いて、4名のワーキングマザーによるプレゼンテーション、学生プレゼンターとして 松下梨那さんによる発表、最後に、参加者の皆さんとワーキングマザーが自由に話し合うトーク・セッションを行いました。

ワーキングマザーからのメッセージ

NHKワールド英語ニュースキャスター
高雄 美紀(たかお みのり) さん

image001.jpg 高雄さんは、男児を育てながら、東日本大震災、フィリピンの台風被害、昨年のアメリカ大統領選など、バイリンガル・ニュースキャスターとして国内外で活躍されています。 24時間体制のニュースの仕事をされ、国内外の出張もこなしながらの子育ては 容易ではないことが想像できます。高雄さんは、産休(産前休業・産後休業)と育休(育児休業)を取得後、お子さんを保育園に預けて職場復帰され、仕事と子育てを楽しまれています。
 ジャーナリストという、勤務時間のコントロールが難しく、海外取材も多い仕事を続けていくには、ご主人と両実家のご両親の支え、ママ友のサポート、職場の理解と協力、そして子ども自身が母親の仕事を理解することが重要だと、高雄さんは語ります。高雄さんの場合、 出張先でニュースを伝える母親の姿を映像で見ることができるので、子どももなぜ母親が不在なのか、どこに行っているのかがわかります。高雄さんは、ワーク・ライフ・バランスについて語るなかで、ワークとライフを時間で区切ってバランスをとるというのではなく、ワークもライフも家族とシェアするという生き方を提示してくださいました。

株式会社ラグジュリーク 代表取締役CEO
眞野 ナオミ (まの なおみ) さん

image001.jpg 眞野さんは、企業でマーケティングやホスピタリティなどを担当された経験をもち、広報部長を経て、現在は 富裕層向けインバウンド(外国人による訪日旅行)を企画する企業を経営されている、小学生の男児2人をもつワーキングマザーです。インバウンドの増加に伴い、外国から日本を訪問される方々に日本の本当の良さを感じていただきたいという情熱をもち、仕事に勢力的に取り組まれています。眞野さんがもともと関心のあった起業を実現されたのは、ご長男が生まれて半年後でした。今回は、雇用主として、ワーク・ライフ・バランスについて話していただきました。

 現在、眞野さんは、 スタッフの採用面接をされており、多様なスタイルで働くことができるよう計らわれています。キャリアを積みたい方にはフルタイム勤務、育児や介護をされている方には勤務時間や日程も調整されています。また、勤務日数や時間の配慮だけでなく、テレワークのほか、子どもの入園準備がある春はバックオフィスの仕事、 時間ができる秋はプロジェクト・マネージャーとしての仕事を選ぶことができるなど、家庭のスケジュールに合わせて柔軟に働ける仕組みを導入されています。ご自身がワーキングマザーであるからこそ、働く側に配慮した多様な働き方を提供されていることと思います。

国際協力機構(JICA)広報室広報課課長補佐
原 三佳(はら みか) さん

image001.jpg 原さんは、開発途上国への国際協力を行うJI CAに勤務されているワーキングマザーです。同じくJICA職員であるご主人がイラク赴任中に、7歳と4歳のお子さん2人を連れてインドに3年間駐在され、昨年、帰国されたばかりです。JICAには育児や介護の経験をもつ職員が同じような状況にある職員の相談にのるワーク・ライフ・バランス・メンター制度があり、その役割も担われています。

 国境を超えて活躍されている原さんは、育児と仕事を両立するうえで大事なのは、ご両親や友人、ヘルパーさんなど周囲のサポートを活用する一方で、自分ができることは活用してもらうというギブ・アンド・テイクの関係だと話します。また、子どもの安全と健康管理が確保できたらあとは委ねること、自分のための時間を作ることも大切です。ワーキングマザーは確かに忙しく、ストレスもありますが、好きな仕事をしているから幸せで笑顔でいられるとの原さんのことばは、未来のワーキングマザーに心強いメッセージです。母親が子どもを連れて海外、しかも途上国に赴任する・・・グローバル化時代の新たな女性の働き方を実感しました。

横浜市戸塚区役所生活支援課 生活保護ケースワーカー
田邊 依充(たなべ えみ) さん

image001.jpg 横浜でケースワーカーとして生活保護を受けている方々の自立を支援されている田邊さんは、ご自身の仕事のなかで直面してきた、女性が経済的弱者となる割合の高さや、女性の経済的な自立の困難さについて話されました 。田邊さんご自身は、二人のお子さんをもち、ご主人と交互に育児休暇を取られ、仕事を継続されています。職場の制度だけでなく、職場にロールモデルとなるワーキングマザーがたくさん居たことの影響は大きく、仕事を辞めるという選択肢はなかったと話してくださいました。

 復職後はご主人と異なる時間帯に1日30分の部分休業をとり、生活時間を調整されています。田邊さんの仕事は人々の命に関わる仕事であるため、短縮した勤務時間の中で「ポイントを絶対外さない仕事をする」ことが必要と強調されました。また、ワーク・ライフ・バランスには自分に戻る時間を作ることは大事ですが、自分にとって大事なこと、自分はどうありたいかがとても重要と語られました。 仕事と家庭をどう両立させるかを悩む以前に、自分は何を大切にしたいのか、どのような自分になりたいのかを描くことが大切であることを伝えてくださいました。

明治学院大学社会学部社会福祉学科2年(当時)
松下 梨那(まつしたりな)さん

image001.jpg 学生代表として松下さんは、将来について考えていること、疑問に思うことを話してくださいました。 働くことや子育てとの 両立をイメージできなかった松下さんは、スリールのワーク&ライフインターン・プログラムに参加し、共働き家庭で二児のお世話を経験されました。将来への不安を期待へと変えてくれたのは、インターン先のワーキングマザーだったと松下さんは語ります。やりがいについて話し合い、疲れていても子どもの寝顔を見てまた頑張る姿を見て、将来の理想とする仕事と人生を具体的に描けるようになったと言います。

 松下さんは、友人や知り合いから、ワーキングマザーに伺いたい 質問を集めてこられました。
自分の時間はどのように作るか?
仕事と子育てを両立するために知っておいて良かったことは何か?
私たちが親世代になった時の社会はどのように変わっているのか?
 
 こうした質問は、次のグループ・トークでもワーキングマザーに投げかけられた質問です。

ワーキングマザーと参加者とのグループ・トーク

image001.jpg 最後に、参加者の皆さんとスピーカーの方々とのトーク・セッションを行いました。ここでは、それぞれのプレゼンテーションを踏まえて、女性ばかりでなく男性参加者の皆さんがワーキングマザーに質問し、自由に話し合いました。以下に、参加者の皆さんとワーキングマザーで展開されたQ&Aのうち10問を紹介します。


Q1 自分の時間、ご主人との時間をどのように作られていますか?
image001.jpg すべきことに優先順位をつけ、自分でできないことは誰かにお願いすることで割り切っています。母親が食事の支度をするなどは固定観念化された母親像ではないでしょうか。
 母親が働くことについて夫の理解は重要であり、夫と過ごす時間は意識的に作っていくべきだと思います。

Q2 結婚や子育てがあるなかでキャリアアップしようと思った時に、どのように考えていかれましたか?
 子どもは欲しいと思っていましたが、出産後も仕事をしたいとは意識的に考えていませんでした。しかし、自分のライフ・ゴールを考えた時に仕事をしないという選択はなく、それがボランティアであっても何らかの形で社会に出ていたいと思っていました。目標設定はとても大事で、買ってでも苦労はしようという目標を設定していました。その結果、今に至ります。

Q3 危険と隣り合わせになるかもしれない環境で、仕事と自分の生活をどのように考えていけば良いのでしょうか。自分の生活を大切にしたい、家族に心配掛けたくないと考えると、難しい選択だと思います。
 危険が考えられても、ある程度は守られているので、それほど心配する必要は無いと思います。ただ、国やその時の子どもの健康状態や自分自身の状況にもよるので、その時々の判断が大事だと思います。危険かもしれないということで選択肢を逃してしまうのはとてももったいないことだと思います。自分には何ができるだろう、何が楽しいだろうというように、ポジティブ・シンキングで考えていくと選択肢は広がるので、ネガティブなことは今は考えなくて良いと思います。

Q4 女性が家庭をもっても働き続けていく社会を作るためには、何を変えていけば良いのでしょうか?
 働き続ける女性が増えていけば、そうした女性を男性も見ていくことになるで、女性が働き続け、積み重ねていくことは、社会を変えていく一つの方法かと思います。
 アジアの途上国では、お母さん達は働いて、働くことが当たり前になっています。日本では働かないという選択肢があり、それはとても恵まれていることだと思います。しかし、働かない選択肢がある分、女性の悩みが増えているのではないでしょうか。働くのが当たり前になれば楽なのではないでしょうか。これからの日本の経済を考えると、働くことが当たり前になってくると思うので、働くことを前提に、そのなかで自分がどのようにワークとライフを整えていくのかを考えれば良いのではと思います。

Q5 働かずに家庭を守っていきたいと思ったことはありませんか?働くことの魅力はなんですか。
 働かないという選択肢は無かったです。職場に女性の先輩がたくさんいるので、職場では女性が働き続けることは当たり前のこととして受け入れられています。また、好きな分野の仕事をしているので仕事は楽しいですし、辞めることを選ぶ必要もなかったし、選びたくないと思っていました。
 もともとやりたかった仕事ですのでやりがいがあります。なので、この先、違うことをやりたいと思うことはあるかもしれませんが、子どもが生まれたことを理由に辞めるという選択肢は無かったです。また、一緒に働いている先輩方もとても魅力的な方々なので、一緒に働いてとても楽しいということもあります。

Q9 これから就職する学生に対して何かアドバイスはありますか?ご自身の振り返りで、こうしておけば良かった、こうしていて良かったなどについて伺いたいです。
 自分の専門分野で仕事を続けていると偏ることもあるので、学生の時に自分の専門と異なる分野の友達をたくさん作り、異なる分野で働く友人と繋がっていると、自分の考えをリフレッシュし、見直すことができるので良いと思います。
 大学生の時に、10年後に子どもを産んでその時に自分はどうなっているだろうと考えたことはありませんでした。なので、このように考えている皆さんはすごいと思いますし、土曜日に出てきて参加している皆さんはすごいと思います。ただ、本日はそれぞれの事例として聴いていただき、本日聴いたことから「自分は無理」などと思い悩むことはなく、様々な状況に対応できる柔軟性をもっていただきたいと思います。

Q10 就活ではどのように企業を選んだら良いでしょうか?
 どのような制度があり、どのくらいの職員がその制度を利用しているのか、また、ワーキングマザーがどのくらいいるのかなどを調べると良いのではないでしょうか。

 グループ・トークでは以上を含むたくさんの質問が参加者から次々と出され、予定時間を大幅に超えての和やかなセッションとなりました。

おわりに

 登壇いただいた4人は、小学生以下のお子さんを育てながら仕事を続けられているX世代(1960年代から1970年代半ば生まれ)のワーキングマザーです。それぞれ異なる分野で活躍され、ワークとライフのバランスをとられている方、ワークとライフを融合させている方と様々です。

 4人のお話のなかの共通項として、仕事が好きで出産しても辞めるという選択肢をもたなかったことが挙げられます。スピーカーの皆さんが生き方を選択するなかで判断基準とされてきたことは、子どもが生まれても働き続けることができるのか、仕事と家庭を両立できるのかではなく、何が好きで何をしたいか、 どのような生き方をしたいのかでした。また、出産後は子育てと両立できるよう、全員が仕事量や仕事内容を調整され、 柔軟でポジティブな思考をされていました。自分が関心をもてることを見極め、自分の関心に合った 仕事に従事する、すなわち好きな仕事に就くことが仕事と家庭の両立の一つの鍵となるということが、X世代の4名のワーキングマザーから、将来、ワーキングマザーになるY世代へのメッセージだったのではないでしょうか。また、無理せず周囲のサポートを得る、自分のロールモデルを見いだすことも、女性の継続就労を後押しすると学びました。

 政府は、女性の就労を推進するために保育園の待機児童の解消に取り組んでいます。男女共同参画社会、 グローバル化した社会で、女性は、子育て中の海外出張や海外転勤など、新たな課題に直面していることが今回のトーク・セッションを通して明らかになりました。女性が社会で活躍し続けるためには、女性がウェルビーイングを保っていけるよう支援していくことが重要です。また、女性も固定観念から脱皮して意識改革をしていくことが大切です。今回は、4人のワーキングマザーの事例でありますが、「仕事が好き」、これが様々なハードルを乗り越え、仕事と家庭を両立させるキーだというメッセージをいただいたと感じています。今回のトーク・セッションが、未来のワーキングマザーとファーザーのエールになれば嬉しく思います 。

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ガールズトークの小さな参加者。未来のワーキングマザーにエールを送ります。

本研究事業は科学研究費助成事業の補助を受けています(課題番号 15K13097) 。