明治学院大学

明治学院大学

社会学部

社会福祉学科

社会福祉学科

福島原発事故後の検証と今後の課題― 避難者の生活問題を通して考える ー(担当教員:和気康太)

福祉開発フィールドワークの目的
 今年度の福祉開発フィールドワークのテーマは、「福島原発事故後の検証と今後の課題―避難者の生活問題を通して考える―」とした。
 福島原発の事故は、かつて日本が経験したことがない、未曾有の大惨事であった。もし東京電力(株)の事故対応がひとつ間違っていたら、東京も含め、東日本すべてが拡散した放射性物質によって避難地域になる可能性すらあったことを考えると、原子力発電という「科学技術」の恐ろしさと、その影響の甚大さをあらためて感じる。
 福島第一原発の近隣自治体は、すでに一部で住民の帰還が始まっているものの、事故から時間が経った現在でも、いまだにその多くが避難地域となったままで、当該自治体の住民は、避難生活の継続を余儀なくされている。そして、そのなかで住民は、さまざまな生活問題(ニーズ)を抱えて生きている。そこで、今年度の福祉開発フィールドワークでは、こうした避難者の生活問題を調査することによって、その実態を明らかにし、今後の課題などについて考えることとした。

1年間の学習の流れ
 春学期は、まず福島原発事故と、その避難者などに関する文献研究を行い、福島原発
事故とはどのような事故で、またその結果として避難者はどのような避難を余儀なくされ、いかなる生活を送っているかなどについての理解を深めて行った。特に「原発事故」は、非常に複雑な問題なので、十分に時間をかけて文献研究を行い、かつ必要に応じてビジュアルな教材(NHKなどのテレビ番組など)を見ながら、履修学生ができるだけ具体的に理解できるように配慮した。また、あわせて「フィールドワーク」とはなにか、どのように行えばよいのかについて、佐藤郁哉『フィールドワーク』(増補版)新曜社、2006年を読みながら、ゼミナール形式で学んで行った。
 夏休みは、春学期の学びを踏まえて、フィールドワークにおける仮説を設定し、調査対象者や機関・団体などに対する<質問事項>を決めるために事前学習会を行った。そして、その上で、夏休み(9月上旬)には実際に福島県の避難地域を訪問し、避難者や帰還者、福祉支援を行っている機関・団体などへヒアリング(面接調査)を行った。
 秋学期は、夏休み中の、福島県におけるフィールドワークの振り返りを行った。具体的には関西学院大学災害復興制度研究所編『原発避難白書』人文書院、2015年を読みながら、春学期同様、ゼミナール形式で輪読会を行った。また、あわせてフィールドワークで入手した調査データの分析を行いつつ、1月末に行うフィールドワーク報告会の準備をグループごとに行った。なお、報告会ではパワーポイントを使うことを必須とし、そのための学習講座も行った。さらに、履修者は、福祉開発フィールドワークの『報告書』の原稿を作成した。
 最後に、1年間のまとめとして、今年度のフィールドワークの報告会を行った。報告会で
はフィールドワークの調査対象ごとにグループを作り、それぞれパワーポイントを使って報告を行った。また、その報告内容に関する質疑応答も行った。なお、報告会には外部の学識経験者2名をお招きして、コメントをいただき、総括を行った。

フィールドワークについて
 福島県におけるフィールドワークは、9月5日月曜日から8日木曜日までの3泊4日で行った。参加者は、福祉開発フィールドワークの履修者20名である。
 具体的なフィールドワークの内容は、下記の通りである。
 9月5日月曜日は、東京(明治学院大学白金キャンパス)をバスで出発し、福島市へ向かった。福島市では福島市社会福祉協議会において、斉藤知道氏(地域福祉課)から今回の原発事故後の県内避難者の状況や、福島県内の市町村社会福祉協議会などの福祉支援の状況などについてレクチャーを受けた。参加者は、このレクチャーによって、今回のフィールドワークの全体像についての理解を深めることが出来た。(福島泊)
 9月6日火曜日は、午前中に福島市を出発し、葛尾村へ向かった。葛尾村では同村の役場を訪問して、松本忠幸氏 (葛尾村役場住民生活課長)をはじめ、葛尾村への帰還者の福祉支援などを担当している所管課の職員の方々にヒアリングを行った。また、その後、すでに葛尾村へ帰還されている住民の方お二人にお話を伺うことが出来た。さらに、午後は葛尾村から楢葉町へ向かい、同町の社会福祉協議会を訪問して、松本和也氏(楢葉町社会福祉協議会事務局長)をはじめ、社会福祉協議会の職員の方々、また一緒に同町へ帰還されている住民の方お二人にヒアリング調査を行うことが出来た。そして、その後、翌日の調査地であるいわき市へ移動した。(いわき市泊)
 9月7日水曜日は、午前中はいわき市内を視察し、午後は同市の社会福祉協議会において
佐藤裕之氏(いわき市社会福祉協議会生活支援課長)にヒアリング調査を行った。また、その後は、同市の仮設住宅を訪問し、入居している住民の方にお話を伺い、さらに同市の復興公営住宅も視察した。そして、その後、いわき市から郡山市へ移動した。(郡山市泊)
 9月8日木曜日は、午前中に郡山市から会津若松市へ向かい、会津地方で福島県の文化遺産などに接する機会をもった。そして、その後、東京への帰京の途についた。

倫理的配慮など
 福島の原発事故では多くの人が生まれ故郷を離れざるを得なくなり、心に深い傷を負ったことをよく認識し、軽い気持ちで避難者のお話を伺ったり、被災地を物珍しく見学をするなどの失礼な態度が絶対に許されないことを履修生に確認した上で、報告書などの作成にあたっては個人が決して特定されないように配慮する旨、書面をもって調査対象者の方々に約束をした。

謝辞
 今回のフィールドワークでお世話になった、すべての方々に心からお礼を申し上げます。
みなさま方が、われわれのフィールドワークにご協力をいただいたおかげで、大変に良い学びの機会になりました。本当にありがとうございました。われわれは、この学びをこれからにぜひ生かして行きたいと考えています。

(写真1)福島県社会福祉協議会でのブリーフィングの様子(斉藤正道氏)
(写真1)福島県社会福祉協議会でのブリーフィングの様子(斉藤正道氏)

(写真2)葛尾村(行政)でのブリーフィングの様子
(写真2)葛尾村(行政)でのブリーフィングの様子

(写真3)葛尾村での原発事故帰還者へのヒアリング調査(1)
(写真3)葛尾村での原発事故帰還者へのヒアリング調査(1)

(写真4)葛尾村での原発事故帰還者へのヒアリング調査(2)
(写真4)葛尾村での原発事故帰還者へのヒアリング調査(2)

(写真5)葛尾村での原発事故帰還者へのヒアリング調査(3)
(写真5)葛尾村での原発事故帰還者へのヒアリング調査(3)

(写真6)楢葉町社会福祉協議会でのヒアリング調査
(写真6)楢葉町社会福祉協議会でのヒアリング調査

(写真7)いわき市における楢葉町の仮設住宅
(写真7)いわき市における楢葉町の仮設住宅

(写真8)原発事故避難地域における除染作業の様子
(写真8)原発事故避難地域における除染作業の様子

社会学部生のための手引き集

日々の社会福祉学科

社会学科・社会福祉学科の情報を発信しています。