明治学院大学社会学部社会学科は、2023年度にカリキュラム改訂を行います。その中でも「表現・実践関連科目」は、メディアの現場で活躍するプロから学ぶ「メディアクリエイティブ演習」(23年度までは「表現法演習」)、「メディアクリエイティブ特論」(新設)によって、よりキャリアや実際の制作に近い実践的な学びができるようになります。

 現役学生によるユニット、レヴィ=スクロースが、「表現法演習」の経験を活かして活動している学生や、実践的な表現に取り組んでいる学生にお話をうかがい、社会学科の学びがどのように繋がっているかを取材しました。

 シリーズ第2回となる今回は、表現法演習を履修した4年生にインタビューし、社会学科での4年間を振り返っていただきました。現役の新聞記者の先生の科目を受講し、その経験が社会調査実習への参加やキャリアに繋がったといいます。メディア表現を学びたい人や、メディアの仕組みをより深く理解したい人にとって、社会学科の学びとはどのようなものだったのでしょうか。

2000年生まれ。社会学部社会学科4年。2年秋に表現法実習、3年通年で社会調査実習を履修。1年生の戸塚キャンパス時代は、実家から往復5時間通学。趣味は地方の市民会館巡り。お気に入りは鹿児島市民文化ホールと長岡市立劇場。

──本日はよろしくお願いします。早速ですが、表現法演習では具体的にどのようなことを行ったのかお聞かせください。

 表現法演習は毎日新聞の鈴木英生先生の授業でした。社会学基礎演習(1年次秋学期必修)が石原俊先生の担当だったんですけど、先生から「僕の同級生が来年から表現法演習やるから、新聞だし、受けてあげて」と宣伝されたことがきっかけです。
 最初は新聞や記者の仕事について教えていただきました。記者の働き方についてや、大まかなジャーナリズムの論点についても、例えば実名報道や、記者クラブの是非についても教えていただきました。

──現場の話も聞けるのですね。

 書く授業は中盤以降からです。まずは「昨日の夕食は何だった」のような小さなテーマから書き始めました。そこから取材して記事を書いてという段階になりましたが、ちょうどコロナ禍の時期でした。
 例えば、私はPerfumeが好きなんですけど、東京ドームの公演(「Perfume 8th Tour 2020 "P Cubed in Dome"」のファイナル)で、いよいよ会場に入るぞ、やっとPerfumeに会えるってなったところで東京ドームにフワンって白い画面が出て、「中止です」って言われて、号泣した話を記事にしてもらいました。振り返ってみればこれが日本で初めて中止になったライブだったんですよね。
 最終的には「人もの」という、1,000字程度で友人や家族の人柄、エピソードとかを書くことがありました。私は、キャビンアテンダントの専門学校に行っている友人が、コロナ禍で就職がなくなってしまって、夢破れたという記事を書いたんです。身近な友達だけど、取材することで、一人の人間としてのドラマがあったりだとか、何気なく抱いてる関心だったり意識とかも、深く掘り下げたら新しい価値観や社会のつながりが見えてくることに面白さを感じて、表現のやりがいを味わえたかなと思います。一番最後の課題では、2000字程度で人の声を取材しつつ、その内容に官公庁が出しているデータを使って一般化していく書き方をしました。

──今まで見えてなかった側面も見えてきた、ということですね。

 その友達も、私が取材した後に、テレビ局が取材してくれたそうで。自分の見てた問題意識は社会的にも共有されてたんだなという感覚になりました。ある種の答え合わせになったかなと思っています。
 それから、私は学習塾でアルバイトをしているんですが、子供たちからデジタル教科書を使った感想を聞いてみたことがありました。デジタル教科書の導入もコロナ禍で前倒しになったので、そのあたりも聞いたりして。
 実際、フィリピン系の親御さんが連れてきた子とかはiPadの使い方が分かってないだとか、2年生まで紙の教科書だったのに、3年生で急にタブレットになったことで、学習の習慣が崩れちゃって受験に身が入らないといった話が聞けたんです。小さな日頃の目線から、社会とのつながりを見出したりする経験だったなと思っています。

──教育の問題一つを取っても、多文化共生やデジタル化の問題といった観点は社会学科の学びと非常に繋がりがありますよね。

──メディア自体には興味があったんでしょうか。

 オールドメディアやマスメディアには漠然とした興味がありました。私はメディアコースを選んだんですが、2年生の時に、アナウンサーの柿崎元子先生のジャーナリズム特論を受けて、マスコミの仕組みってこうなってるんだっていう知識を身に付けました。そこで、SNSやインターネットで誰でも発信者になれる時代だからこそ、蓄積されたオールドメディアのプロの記者の力っていうのはしっかり評価されていく部分だなと思ったので、さらに専門的に学べる新聞の表現法演習を取ろうと思って、秋の表現法演習でいざオールドメディアの実践に取り組むことにしたんです。

──表現法演習での実践と、社会学科の他の授業の内容とが繋がっている場面はありましたか。

 表現法演習で人の声とか人の話を聞くなんて面白いなと思って。それは、ペンと文字だけで社会との繋がりが見えたり、情景描写とかできることの面白さだったと思うんです。
 社会調査実習を取ろうと思ったのは、入学式で社会学科の先生が「大学で1個頑張ったっていうのが必ずあるようにしてください」って仰ってたんですよね。だったら数年かけてしっかり社会調査実習を頑張ろうかなと思ったんです。

 これは野沢先生ともお話ししたんですけど、世間で想定されてる「弱者」は、貧困とか、性差、女性男性とか、障がい者とか健常者とか、分かりやすい何かしらの概念と結び付けられてることが多い気がするんです。
 実際に調査実習で、インタビューを行ったことで、どこで弱者や苦難を背負っている人の線引きをするのかを考えさせられたんです。だからこそ、そういった固定的で断定的な思考から離れて、もっと包括的に総合的に考えたいと思ったことで、社会調査を一生懸命頑張れました
 もちろんデータとか数字は大事だけど、人間が記録したこと、つまり人間が生きた証が心に残ることで、社会と繋がるだけではなく、未来にも繋がってるっていう意識を持てるんじゃないかなと思います。

──抽象的な大きな社会問題を、インタビューや具体的な視点から捉えにいくということは、社会調査だけでなく社会生活で求められる姿勢ですよね。

 記者の方から「冷たい数字とか冷たいデータを、どれだけ人に読ませるか、関心を持たせるかといったら、やっぱり人の声しかないから、自分の経験や問題意識とかを落とし込んでからデータに目を向けてもらう」とお聞きして、改めてそう思いました。

──現代におけるオールドメディアとの付き合い方をどう考えていますか?

 活字離れや新聞の部数が減っている現状があります。紙面を読む人って確かに減ってきていますけど、例えば、LINEニュースとかニュースピックスの情報の発信源として新聞記事に触れることは多くなっているかもしれませんよね。
 社会学的な考察としては、今の時代は、イントロがない音楽が流行ったり、違法ですけど「ファスト映画」のように、何事も簡潔で時間を取らせない仕組みが望まれている時代だと思うんですけど、新聞は短く簡潔でポイントの詰まった文体とか媒体で、むしろ現代にぴったりな媒体だと思っていて。何か読むきっかけさえあれば、かなり身近な存在として捉えられるのではないかなと思ってます。
 ニュースとか時事ネタについては、どれだけ社会の一員として考えているか、社会との繋がりをどこに持っているかということだと思います。
 私、インターンだとか、サークルに入ったって経験がほぼないんです。でも、コロナ禍の就活では、そういった活動ができないことが前提になった分、自分がこれまで抱いてきた問題意識とか、生活の経験が大事だなと思いました。

──こういったお話を聞けて、心強く思う学生も、間違ってないのかなと自信になるような人も出てくるのではないかと思いました。

 大学の勉強を信じていいなって思います。
 やっぱり就活がゴールになってしまいがちですけど、学生生活っていろんな選択肢があることがいいじゃないですか。何かインターンしてみるとか、資格取ってみるとかありますけど、私は就活ではその大学で学んだこととか何かこう先生とかがポロっと言った一言とかを書いたりしていたんです。大学の授業が一番の武器だなと思いました。

──今日はお話を聞かせていただきありがとうございました。





Twitterでフォローしよう

おすすめの記事