専門的なデータの収集・分析手法を身につける
~「質的データ分析」で社会の分析を学ぶ~

「質的データ分析」は、インタビューや参与観察、資料分析など、「質的」な社会調査法を学ぶ授業です。専門的なデータの収集・分析の仕方を、どういった注意や倫理的な配慮が必要かを含めて、実践的に学びます。3年次以降ゼミに入って、ゼミ論や卒論を書くのに、専門的な分析方法をひとつも身につけていないというのは困ります。本科目は、「社会調査士」取得のための科目のひとつでもありますが、この資格を目指さない学生にも重要な分析手法を学びます。
社会学的に分析するとは
たとえば、薬害被害者の手記の分析例を取り上げてみましょう。大変な苦労をされたんだなあと、感情移入して読むことが分析ではありません。著者が、初期の段階で自分自身を「病者」として記述していたのに、それが「障害者」、「被害者」と変化し、最後には「告発者」として記述しているというように、著者自身の社会における立ち位置/役割が変化して行ったことを発見する。それが分析するということです。(関心のある方は、栗岡幹英『役割行為の社会学』世界思想社(1993)をご覧ください。)このような、ときに当事者が意識していないことも含めて、社会のメカニズムや人と社会の関係を見つける視角と具体的な調査方法を身につけると、社会学はさらに自由につかえるようになります。
専門的な質的調査法とは

「質的データ分析」では、インタビューや参与観察、資料分析などの手法を用いて、社会の動向や人間の思考や行動を検討します。同じ「質的データ分析」でも、インタビュー調査や参与観察、雑誌や新聞といった文字や図像資料の分析など、クラスによって学ぶ手法や力点に違いがあります。
インタビュー調査とは

インタビューと一口に言っても、雑誌記事を書くためのインタビューと、社会調査のためのインタビューでは、注意しなくてはいけない点が異なります。たとえば、「働くとは」というインタビューで、人生の諸先輩の経験とメッセージを聞き、検討するとしましょう。その一部を目立たせて報道するのではなく、学術的な客観性を保った分析にするには、誰に聞いたらいいのか、何人に聞いたらいいのか、どうやってその人たちに協力をお願いすればいいのか、何に注意して聞いたらいいのか、聞いたデータのどこをつかうのか、データから何が言えるのか等々、考えなくてはいけない点はたくさんあります。また、たくさんの人に質問できるアンケートではなく、少数ながら深く聞けるインタビューの強みを生かした調査設計のツボを学ぶ必要もあります。録音、記録作成上のマナーや公表の際の倫理的配慮なども学びます。
参与観察・観察とは

参与観察とは、現場にメンバーとして長期間参加して観察した記録をフィールドノーツにまとめる調査手法です。当事者が「当たり前」だと思っている生活世界を知り、分析するのに力を発揮します。優れた古典として、B.K.マリノウスキーがオーストラリアのアボリジニと生活を共にして描いた『西太平洋の遠洋航海者』やW.F.ホワイトがボストンのイタリア移民コミュニティを描いた『ストリート・コーナー・ソサエティ』があげられます。授業では短時間の観察をし、記録を書き分析する練習をします。たとえば、交差点での人々の行動を観察してみましょう。「横断歩道で信号待ちをしている際に、近くに幼い子どもがいるときには大学生は模範的に行動する」といった発見があるかもしれません。自分がその場に参加しながら客観性を保つにはどうしたらよいのか、膨大な情報の中から必要な情報を書きとめるにはどうするかなど、社会学的な「勘」を研いでいくトレーニングにもなります。
ここにあげた以外にも、クラスによって多彩なメニューをそろえていますので、自分が専門的に学びたい手法をしっかり見極め、履修クラスを選びましょう。なお、いわゆるアンケートを学びたい人は、「社会調査の技法」「フィールドワーク演習」「社会統計学」「数量データ分析」を履修することをおすすめします。また、資格の取得希望に関わらず、1年次の「社会調査の基礎」を学んでおくと、広く社会調査とは何か、どういう手法があるのかがわかります。