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大城 貞俊

プロフィール

大城 貞俊(おおしろ さだとし)

 

1949年、沖縄県国頭郡大宜味村生まれ
1972年 琉球大学法文学部国語国文学科卒業
現在    昭和薬科大学付属中・高校教諭

詩誌「EKE」同人
個人詩誌「詩と試論・貘」主宰
現代文学・思想を読む会「グループ ZO」同人

詩集
『夢(ゆめ)・夢夢(ぼうぼう)街道』(1989 編集工房・貘)
『グッドバイ・詩』(1994 てい芸出版)
『ゼロ・フィクション』(2000 ZO企画)
『或いは取るに足りない小さな物語』(2004 なんよう文庫 第28回山之口貘賞)

評論
『沖縄・戦後詩人論』(1989 編集工房・貘)
『沖縄・戦後詩史』(1989 編集工房・貘)

小説
『椎の川』(1993 朝日新聞社 具志川市文学賞) 
『山のサバニ』(1998 那覇出版社)
『記憶から記憶へ』(2005 文芸社)
『アトムたちの空』(2005 講談社 第2回文の京文芸賞最優秀賞))

 

「立哨」

  甲冑に身を固めたアレクサンドロスの夢を見たことがある……。
  立ち尽くしていると、まるで世界は直線のように思えてくる。水
平に移動する人、車。垂直に交錯する樹木、建造物……もう三十年
余も見続けてきた風景だ。動かぬものと、動くもの。私たちの周囲
には、それしかない。ときとして、立ち尽くす私の存在さえ、畢竟、
それらのものから成り立っているのではないかと思われてくる。
直立する私の肉体、交錯する私の影と夢……。
  緊張を持続する……あらゆるものから耐える方法だ。若い頃は、
一千余の物語が私の脳裏に日々詰まったものだが、おのれを無にし
なければ、この仕事はやっていけぬ。
  一枚の落葉が、地上へ舞う。脚を開いて直立する私。手を広げる
とアスファルトに映るおのれの影は、だんだんと「旅」の文字に見
えてくる……。

                          『夢(ゆめ)・夢夢(ぼうぼう)街道』より

 

「樹」

  1
樹と言おう なぜなら樹だからだ
それ以外の意味はない
みずから意味をつけるとき 樹は樹でなくなる
闇の中であっても樹だ 春にも樹である
枝を落としても 花を落としても樹である
だが いっぽんの線を引くだけで
一個の点を打つだけで
樹でなくなる
そんな白い地平がある

  2
たとえば
樹の枝が土中に埋まり
樹の根が空中に広がっている
とすれば
人間は土中に潜ろうとしている一本の釘(くぎ)だ
頭部は排泄する器官に過ぎない

  3
天空が内部の水を引っ張っている
葉は空を漕ぐ櫂
枝は逃走する瞬間の姿態
根は伸びることを裏切った細胞たち
ゆめゆめ 樹は不幸である
なぜなら 樹は 樹を食べる彼らを
食べることができないからだ

  4
年輪こそが 見えないもののなかで
最も美しい
樹のなかでそっーと流れているもの
樹のなかでそっーとめざめているもの
緑の色はすでに一つの兆候であり
樹液は一つの結果である

  5
樹は地球の消音装置
喧騒を総身に受けて天に吐く槍
風立つ朝 樹は樹の姿勢で
ひゅるひゅると悲鳴をあげて身を揺すっている

  6
樹よ わたしを見るな
その千億の目で わたしに問うな
その葉状の手で わたしを招くな
わたしだって
彼岸に至るには
たった一歩の決意にすぎないことを
未だ忘れてはいない

                          『グッドバイ・詩』より

 

「水」

  1水の月
水に映える影は悲しい
私の影も揺れている
水をめくって
水を見つめて
水の月に至る

  2 水紋
私の水紋は
年輪のようには刻まれない
私は水の中で犬になる
たった一匹の
溺死する
犬になる

  3水府
洗面器の中にも水府がある
ここも魔境だ
月が棲む 影が棲む
手を入れ
中心をかきまぜ
掌で掬い上げ
水を首にあてる

  4 水の誘惑
水に馴れるために
水に抗うために
今日も水で
顔を洗う

                          『ゼロ・フィクション』より

 

「寓話 6」

二十八万五千九百十七組が一年で離婚するニッポン
毎年増え続けている数は二〇〇一年の夫婦の数字
これほどニッポンのニンゲンは強くなったのだ
ニンゲンの分だけ涙があるという言葉は的を射るか
離婚率トップは、ドウドウと沖縄県
ようこそ「癒しの島へ」「地上の楽園」「海と空と白い砂浜と」

  基地に草冠を被せたら墓地(ぼち)になる
  知っていても、黙っておこうねツトム君

あの人たちもこの島の魅力に取り付かれたのだから
この人たちは、さらに島の価値に気づいたのだから
知らなくてもいいことを教えるのは教室だけでいい
ヘリコプターのプロペラは人を切らないのだから
沖縄の八月は、血を流さないのだから

  死ぬと言う言葉に貨幣の弊を隠して付けたら斃死
  知っていても、本当に黙っておこうねスナオ君

沖縄という島の子供たち
沖縄という島の大人たち

  首に縄を付けて、もっと価値のある場所に
  島を引っ張っていこうよアヤコちゃん
  島はもっと髙くで売れるから

                          『或いは取るに足りない小さな物語』より

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