「テクノソサエティ(technosociety)」とは、現代の社会状況を一言で表現する便利な造語である。私たちの生活は、日々開発される多種多様なテクノロジーに支えられ、様々な道具に取り囲まれている。これが私たちの現在の状況だ。その事実が、往々にして私たちを不安に陥れ、またときとしてバラ色の夢に満ちた革新的未来社会を予期させる。しかし、テクノソサエティに生きる私たちひとりひとりは、新たなテクノロジーの導入による影響を一方的に被る受動的な存在ではない。テクノロジーは、私たちによって選択され、拒絶され、創造的に使用され、造りかえられる。現実の生活とテクノロジーは、つねに互いに折り合いをつけながらともに変化していく。つまり、テクノロジーはきわめて社会的な性格をもっているのである。「テクノソサエティの現在」3巻シリーズは、そのような観点に立ち、テクノロジーと私たちの生活との間にある社会的な連関を様々な角度から透視することをねらいとしている。
明治学院大学社会学部付属研究所では、2000年度に「現代社会における技術と人間」という研究テーマを掲げ、社会学・社会心理学・文化人類学および社会福祉学を専門とする10名の学部内研究者によって「特別推進プロジェクト」を組織し、共同研究を開始した。翌2001年度からは、2年間にわたって日本私立学校振興・共済事業団の学術研究振興資金(研究課題「現代社会における先端技術の『先端性』の社会的意味-受容と葛藤」、研究代表者・野沢慎司)による研究助成を受けられることになり、学部内のみならず学外からも新たな共同研究者を加えて、より学際的な大規模共同研究プロジェクトへと発展した。さらに2002年度から2004年度には、文部科学省科学研究費補助金(研究課題「現代社会における先端技術の社会的意味に関する社会学的研究-コンピューター・ネットワークから遺伝子技術まで」、研究代表者・西阪仰)を得ることによって、実質的に5年間にわたるプロジェクトとして展開することができた。
プロジェクト・メンバーは、「遺伝子技術の社会的意味」「ソーシャルサポートにおけるCMC(computer-mediated communication)」「相互行為の中の技術」というサブテーマを掲げた3つの研究グループに分かれて、多様な調査を敢行し、多岐にわたるデータを収集・分析してきた。その成果は、すでに何冊かの調査報告書、明治学院大学社会学部付属研究所の機関誌『研究所年報』掲載の諸論文などのかたちで公表されてきた。このたび、3グループの成果を「ソキウス研究叢書」の3巻としてまとめて出版する機会を得た。このプロジェクトの研究知見を、さらに広く社会に還元できる幸運を大変喜ばしく思う。
「テクノソサエティの現在」Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ 編者一同
加藤秀一・柘植あづみ・西阪仰・野沢慎司・宮田加久子(50音順)