明治学院大学

明治学院大学

日々の社会学科

社会学部TOP 社会学科 日々の社会学科

日々の社会学科教員の活動

ルーマニア・アメリカ大学でオンライン(双方向ライブ配信型)特別集中講義を行いました。
―双方向ライブ配信型授業のための3つのティップス―

2020年3月以降、コロナ禍で海外渡航制限がかかり、海外の大学への留学や渡航を前提とした国際交流が難しくなっています。一方、こうした状況下で、様々な国や地域の教育環境も激変し、多くの国や地域ではオンライン教育環境の整備が進み、それを前提とした講義や授業の展開が活発になってきてもいます。

グローバルにこうした教育環境が歴史的にも新しく創出されてきているなかで、わたし自身もこの1年間、オンライン環境を利用してさまざまな海外の大学や教育文化センターと新しい試みを繰り返し、経験を蓄積してきました。なかでも、2020年12月7日〜11日にルーマニア・アメリカ大学(ブカレスト=わたしのZoom教室)で行った特別集中講義はとても貴重な経験でした。

それで今回は、そこでの歴史的に新しい特別な経験と、その経験から得られたコロナ禍における今後の高等教育のためのいくつかのティップスをご紹介してみたいと思います。

この特別集中講義は、もともと2020年3月23日〜27日の一週間でルーマニアの首都ブカレストに行き直接実施する予定だったものが、その代替プログラムとして実現されたものです。昨年3月の半ばには、コロナ禍でルーマニア・アメリカ大学でも海外からの留学生や招聘教授の受け入れを制限しはじめた影響で、わたしが準備していた3月末の英語の講義 "Short History of Modern Japan: From the End of Tokugawa Era to the Age of Globalization" を中止せざるをえなくなりました。

ところが、6月中旬に、ルーマニア・アメリカ大学の受け入れ担当から連絡があり、「オンライン(Zoom)で講義を再開する準備をしているけれどもできますか」との英語のメールが届きました。その頃までには、わたしの方も、双方向ライブ配信型(Zoom)の講義や演習形式の授業をなんとかこなしてきていましたので、「多分可能だと思います」と返信をしました。1分の講義概要をふくんだ自己紹介ビデオを指示にしたがってiPhone で横向き画面(landscape)で作成して、それをブカレストに送りました。その後、日程と時間を調整して(2020年12月時のブカレストと東京の時差は東部ヨーロッパの冬時間で7時間ありました)、Zoomで双方向ライブ配信型の講義を行いました。

一週間の講義内容は、以下の通りでした。

2020/12/7: Traditional Society in the 19th Century
2020/12/8: Economic Growth after the End of Second World War
2020/12/9: The Growth of 3 Big Metropolitan Areas and Social Change
2020/12/10: Facing Globalization in the 1980s
2020/12/11: Japan as a Globally Urbanized Society

講義時間については、2020年3月末の現地ブカレストでの予定は1回4時間の英語の講義でしたが、それを秋春のセメスターに2回に分けて毎回2時間の英語の講義を一週間(月曜日から金曜日まで5日間)行ってほしいとのことでしたので、そうしました。前もって35名の履修登録した学生の名簿が送られてきました。講義当日はZoomの待合室で、日本で行っているのと同じように学籍番号とルーマニア語の学生の名前を確認して、ルーマニア語で「こんにちは」(Buna ziua, ブナ・ジウア)と言いながら学生の入室を許可しました。

これはとても自然にできました。それは、前年(2019年)にブカレストでルーマニア・アメリカ大学の学生たちに実際にルーマニア語で「こんにちは」「ありがとう」(ムルツィメスク、メルシー)などと言いながら欧州連合招聘教授として英語で講義をした経験があったことにくわえて、ルーマニア語は西スラヴ語地域ではめずらしくラテン語系の言葉で、イタリア語を話すわたしにはその単語を口にする「身体性向」(bodily hexis, すなわち、身体の使い方やそれにみあった生体のリズム)があったからです。ネット空間上であっても、これは助けになりました。

学生たちは入室してくると、Zoomを利用した日本における大講義と同じように、ミュートで名前をルーマニア語で提示していました。ときおりテクノロジー環境に慣れていない学生がいてミュートにせず入室してハウリングが起こると、テクノロジー担当と思われる少し年上の学生が一人混ざっていて、「voiceをミュートに!」と適宜指示を出していました。そういったこともあり、授業環境はとても整えられていたと思います。

講義の前半では、power pointでipadに準備されていた英語のスライドをタッチで「スライドショー」を展開しながら英語で説明し、通常はスライドのなかにハイパーリンクで埋め込まれていてその都度提示していく映像、画像、文書、資料等は、ipadの処理能力を考えて講義の中断がないように、講義の後半で文脈を辿り戻りながら準備しておいた処理能力の高いパソコンにホストを切り替えて説明をくわえていきました。これもうまくいきました。

学生は、質問があると"teacher, teacher!"と言って、講義の途中でも英語で質問をしてきました。その都度、短いディスカッションの時間になりました。授業初めの出席確認のときも、学生たちは"present!""I'm here!"などとミュートをはずしビデオをオンにして、ビデオのなかでときに手を振ってアクティヴに返事をしてくれました。そこには、参加している学生の授業への期待や熱意を感じとることができました。

また、他の授業でもすでにZoom教室で同様に英語で返事をしている「馴れ=状態=行動性向」(ἕξις, 社会学においてよく知られたラテン語で表現すればhabitus)も感じられました。そこには「変化しつつある行動性向」としての新しい「我慢強さ」(καρτερία, Endurance)や「我慢のなさ=柔軟性」(μαλακία, Softness)が「身振り」「手振り」「発話行為」「心の振る舞い=習慣」として示されていたと思います。おそらく、わたし同様にアメリカ合衆国やヨーロッパ各国の大学からオンラインで英語の授業をしている先生がルーマニア・アメリカ大学の秋期セメスターにはすでにたくさんいたのでしょう。

ICT技術をめぐるオンライン授業環境の発展によって、時代はわたしたちの想像をはるかに超えて先に進んでいると感じた一週間でした。

成績は、一週間の講義を終えた後で、出欠のチェックと授業内での質問や発言の積極性や質を名簿で再確認してつけ、週明けには大学に送信しました。ちなみに、2019年3月のブカレストにおける特別集中講義では、授業時間内に授業内容の理解を試すオーラルの試験を英語でひとり5分程度行い、最終授業日の終了前には成績を出していましたので、この点は今回と大きく異なっていました。

以上の経験から、ほんの短い間の限られた経験ですが、その後に実施したいくつかのオンラインによるグローバルな文化交流の経験もふまえると(トルコ文化センター(東京・東北沢)との「オスマントルコ・セミナー」共催(2021年1月26日開催)、台湾・東呉大学との国際文化交流会の開催(2021年2月23日に、日本文化に関する学生の4つのプレゼンテーションを実施)、ウクライーナ国立オデッサ大学と国際文化交流会を開催(2021年3月23日に、明治学院大学とオデッサ大学の双方から学生によるプレゼテーションを実施)、オンライン(Zoom教室)でグローバルな文化交流(教育機会の提供)を成功させるための、次のような3つのティップスを引き出すことができるように思います。

言葉を共有する
第一は、言語環境のマネジメントにかかわるものです。今回は、もともと英語の講義と位置づけられていたので英語による良好なコミュニケーションが期待されていましたし、またその必要がありました。しかし、他方で、日本の社会や文化に強い関心がある学生たちへの講義なので、適度に日本語を書いて見せたり発音したりということも参加学生を刺激したり満足させたと思います。また、ルーマニアの学生たちとのコミュニケーションを活性化するためには、ルーマニア語のフレーズを口にしたりルーマニアの文化との比較もときどき取り入れて議論したことも、授業を盛り上げるのに効果があったと思います。

時間を共有する
第二は、物理的な距離の遠さ-近さが生み出す時差のマネジメントにかかわるものです。ルーマニアの大学とは7時間の時差を調整して体調を整え、講義をする必要がありました。しかも、講義が始まる時間も終わる時間もそれぞれのローカルタイムにおいて正確でなければなりません。台湾の大学とであれば、時差は1時間ですが、逆に時差があることを忘れないようにしなければ、正確に授業の時間を共有はできません。また、講義の前後の時間がどのような社会的時間であるのかも、把握し想像しておくことが必要になります。

テクノロジーを共有する
第三に、ICT技術のマネジメントに関するものです。今回は、わたしが提供するZoom教室で(わたしは自宅の書斎でルーマニアの学生たちはそれぞれブカレストや地方の自宅で)、講義に参加しました。ルーマニア・アメリカ大学側の技術社会的な問題は、専門的知識を持つ学生が一人混じることで解決できました。通信上の問題も、とくに生じなかったと思います。この大学では、2019年3月末の特別集中講義のときに、すでに5Gのネットワーク環境が構築されていました。

しかし、同じことをルーマニアの他の大学で行ったら、同じような条件で講義が最後までできたかどうかは分かりません。現に、明治学院大学におけるオンライン(Zoom教室)を利用した授業でも、2021年の5月時点で、少数ですがいまだにネットワークから抜け落ちていく学生が見受けられます。

いずれにしても、オンライン(Zoom教室)でグローバルな文化交流を成功させるためのティップスは、1)言葉の共有、2)時間の共有、3)テクノロジーの共有、の3つにまとめられると思います。この3つが共有できれば、グローバルな文化交流のためには現地に赴かなくても、かなりリアリティのあるアクティヴな活動空間が創出できると、ルーマニア・アメリカ大学における特別集中講義の経験から学ぶことができました。

この3つのティップスは、実際には国内でオンライン(Zoom教室で双方向ライブ配信型)の授業をする際にも実現する必要がある空間=社会環境であるともいえます。しかし、同じ空間でも「国境を越える」と、実現の困難さが格段に変わります。言語環境、時間意識、テクノロジー環境がガラリと変化するからです。しかし、そうではあっても、入念な準備と「身体感覚=性向」さえ持てば、徐々に自然にできるようになっていくものだと思います。

明治維新から150年余り、日本人は標準日本語を普通に話し、洋服を着てパンを食べ、自動車を運転するようになったのですから、できないはずはありません。そしてこれは、歴史を振り返れば分かるように、立法者がなすべき新しい時代の身体技法への配慮の問題でもあるのです。

 (岩永真治)