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社会学部

社会福祉学科

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金子 充 (担当科目:社会福祉学概論)

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専門領域あるいは担当科目の紹介

社会福祉学概論

社会福祉学概論は、社会福祉学の学びのテーマや基本的な考え方・視点について理解を深め、思考をうながす導入的な講義です。社会福祉の学びにおいては、さまざまな人間(個人)の暮らしや人生、そしてそれに多大な影響を与えている社会の構造について理解を深めることが重要であるとされています。「人間」と「社会」を学ぶことを基礎にして、さらに社会福祉を成り立たせる原理・価値、日本や海外の社会福祉の政策・援助の考え方や特徴について考えを深め、これからの社会や社会福祉を展望・構想していく力を身につけていきます。

近年、社会福祉はごく一部の「対象者」のためではなく、すべての人々や市民が利用・参加できる政策・実践としてあるべきだと考えられるようになりました。これを社会福祉の「普遍化」と呼びます。しかし、社会福祉の法制度は「障害者」や「貧困者」という具合に「対象」を決めて、人間を選別・区別しつづけています。その弊害がさまざまな問題となってあらわれています。たとえば、精神疾患のある方や生活保護が必要な方について、社会福祉の「対象」として認定されなければ支援が行き届かず、また「対象」として扱われた場合には差別や偏見の目が向けられることがあります。

では、どのようにしたら社会福祉の「対象」という思考の枠組みから解放され、誰もが利用・参加できる「普遍的」な社会福祉の政策・実践を成り立たせることが可能でしょうか。地域・コミュニティのつながりにもとづく市民活動や当事者が主体的に取り組む「自助」はそのヒントとなるでしょう。これらの活動には垣根がなく、対象者を選別するようなことはしないでしょう。しかし、だからといって社会福祉をすべて市民活動や自助に委ねてよいということにはなりませんし、支援を求めている当事者の「自己責任」で解決すればよいという発想にも無理があります。社会福祉の「普遍化」は、政府・国家がおこなう「公的部門」にしかできない社会福祉の役割を十分にふまえた上で、当事者やコミュニティによる福祉の実践をいかに活性化したらよいのかという二段構えで議論しながら進める必要があると思います。

「普遍化」においてもうひとつ重要なことは、それをめざす目的をつねに確認しておく必要があるということです。なぜ社会福祉はすべての人々や市民のものであるべきなのか、理屈は重要です。というのも、現代社会は「自己責任」の社会になっており、また福祉サービスは個人が購入すべきだと考える市場社会・消費社会なので、そのなかで社会福祉をどのような意味で「普遍的」におこなうのか、目的を確認しておく必要があるわけです。

たとえば精神障害者やホームレス状態にある人を「気の毒」で「かわいそう」な人だから救済が必要だと考えたり、社会の防衛や治安維持のために積極的に「管理」しなければならないと考えたりする議論があります。しかし、そのような目的でおこなわれる社会福祉は「普遍的」なものとはいえませんし、何より当事者たちはそんな社会福祉を望んでいないでしょう。

「普遍的」な社会福祉を実現するには、(そのようなものは不要だという議論も含めて)いっそう多くの議論が必要です。そのためにどのような制度や実践が必要か、それを誰がやるのか、誰が責任や支払いを負うのかなど、論点は多岐に及びます。これらの原理的な考察をおこない、多領域にまたがる「福祉」全体の展望を示すのが「社会福祉学概論」もしくは「社会福祉原論」だと思います。

ところで、人間は誰しも、それぞれ「こだわり」の生活を送り、それぞれの楽しみや喜び、プライドを持って人生を歩んでいるものです。ホームレス、生活保護受給者、精神障害者、性的マイノリティ、外国人など、さまざまな「マイノリティ」と呼ばれる人々であっても、選択肢が限られているものの、それは同じです。「異文化」であるマイノリティの人々の「生きざま」に触れ、想像力をもってその方々の人生や経験に向き合うことで、社会福祉が「普遍化」に向かうべき理由が少し見えてくることがあると思います。どのような「異文化」の人間であれ、個別性に配慮し、リスペクトすべきだということです。社会福祉学は、こうした「他者のリスペクト」にもとづく人間理解をベースにして、理念的な議論を体系化してきました。自由、平等、権利、正義、尊厳、互酬といったキーワードにまとめられた諸議論を手がかりに、社会福祉がなぜすべての人々のために必要なのかを一緒に考えていきましょう。

専門領域の理解を深めるための文献紹介

  1. ルース・リスター著、松本伊智朗監訳、立木勝訳『貧困とはなにか ―概念・言説・ポリティクス』明石書店、2011年.
    貧困のとらえ方の議論や貧困についての言説(貧困がどのように語られているか)が整理されていて、かつ貧困を経験する人々をエンパワーし、その主体性を尊重する視点まで示してくれるラディカルな貧困論です。社会福祉学の人間理解の基本に据えたい一冊です。
  2. ジグムント・バウマン著、伊藤茂訳『新しい貧困 ―労働、消費主義、ニュープア』青土社、2008年.
    ワーキングプアや多重債務といった現代の福祉問題を深く掘り下げて考えるにあたって、労働倫理、過剰生産、消費社会の進展、福祉国家の失敗といった政治経済システムに関わる問題に目を向ける必要性をあらためて確認できる、優れたテキストです。
  3. 西澤晃彦『人間にとって貧困とは何か』放送大学教育振興会、2019年.
    社会福祉学は「貧困に対して何が必要か」を考えますが、本書は「人々が体験する貧困」をどのように理解し、記述したらよいかを(社会学の視点で)徹底的に説明しています。結果として人々が体験する貧困の普遍性、背景の共通性がクリアに見えてきます。
  4. 小熊英二『日本社会のしくみ ―雇用・教育・福祉の歴史社会学』講談社現代新書、2019年.
    社会によって規定される暗黙のルールを「しくみ」と定義し、そのしくみがいかにしてつくられ、社会的に管理されてきたのかを歴史社会学的に説明しています。日本の雇用、教育、社会保障といった制度を規定している「しくみ」の理解が深まります。
  5. ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争 ―ブロークン・ブリテンの無料託児所から』みすず書房、2017年.
    イギリスの貧困地区にある託児所を舞台に力強く生きる親子の現実を、社会に対する皮肉とユーモアを込めて描いた読み物です。緊縮財政により福祉削減を図ったことで貧困の拡大とコミュニティ崩壊をもたらした英国のリアルを知り、日本の社会と社会福祉の未来を考えさせてくれます。
  6. 山森亮『ベーシック・インカム入門 ―無条件給付の基本所得を考える』光文社新書、2009年.
    新しい生活保障システムの構想である「ベーシック・インカム」の議論を通して、生活と労働、ジェンダー、所有、贈与と互酬といった諸テーマを幅広く議論しながら、現代社会のさまざまな矛盾や理不尽を再考する入門書です。新書でありながら、社会福祉の議論に抜け落ちがちの「想像力」と「創造力」をフル動員して読むことを求められます。
  7. 岩崎晋也『福祉原理 ―社会はなぜ他者を援助する仕組みを作ってきたか』有斐閣、2018年.
    古代社会の救済や宗教的な慈善をはじめとする「福祉」の営みがなぜ必要とされたのか、どのように正当化されてきたのかを「人類の歴史」から読み解いています。世界史や日本史の知識を総動員して読むことになるので、受験勉強をした新入生ほど読みやすいかもしれません。しかし、福祉の歴史を扱いながら社会福祉学のメインテーマ(なぜ福祉が必要なのか)を意識してまとめられた原理論です。

その他

福祉に関心のある高校生・大学生へ

矛盾だらけの社会に疑問を感じ、そんな社会を変革したいと考えてきました。しかし、年を重ねるごとに社会の善良な部分も見えるようになり、次世代にこの社会を残さなければならないとさえ考えるようになりました。この2つの考えは対立するもので、自分の中でずっと混乱しています。

若い学生のみなさんとこうした議論ができ、多くの刺激を受けながらこれからの人間と社会のあり方を考えていけることに大きな喜びを感じます。大学の研究室は「工房」のようなところです。みんなで一緒に語り合いながら、これからの社会を大胆に想像し、新しい時代をつくっていきましょう。

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