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(c) 中央公論新社
社会学科主任
石原 俊

わたしたちはどこにいるのか

信じがたい気持ちにもなりますが、あの新型コロナウィルスのパンデミックが始まったのは、今(2024年4月)からわずか4年ほど前のことでした。日本ではこのパンデミックに対して、他国のようにロックダウン(外出制限・封鎖)政策こそ行われなかったものの、飲食店などの営業を制限する政策がとられました。非正規雇用を中心に、収入が激減する人たち、職を失う人たちが続出しました。今でも日本の非正規雇用率は、男性に比べて女性が圧倒的に高いので、女性にしわ寄せが集中しました。

そして、コロナ・パンデミックが「終わった」後にやってきたのが、人手不足、円安、インフレ、そして戦争の時代です。

パンデミックのときと真逆に、アルバイトを含む非正規雇用の現場は今、極端な「売り手市場」になっています。人手不足で閉業する企業や店舗が続出し、日本は数十年ぶりに本格的な賃上げ局面になっています。わたしが大学を卒業した1990年代後半には大不況があり、同世代の多くの若者が劣悪な雇用条件に甘んじることを余儀なくされました(氷河期世代)。ところが、その後四半世紀もの間、この国は、賃上げの抑制や非正規雇用への置換えで人件費を抑え、企業どうし・労働者どうしを「競争」させることで、「生産性」を上げようとしてきました。しかし、そうした国や社会のあり方が限界を迎えています。

「円」が弱くなり、物価が上がりました。日本でも物価上昇は実感できますが、欧米のインフレーションはそれ以上です。たとえば、米国の大都市圏のマクドナルドでは今、ビッグマックの値段が日本円換算で約1000円にのぼります。わたしが学生だった1990年代は、まだ円が強かった時代でした。まとまったアルバイトをしてお金を稼げば、たとえば夏休みに1ヶ月間、安宿に泊まりながら海外の先進国を転々とするぐらいのこともできました。今の学生さんの多数にとっては、留学どころか、物価が高い先進国への海外旅行さえ、ちょっと難しいかもしれません。一方で、日本はいまや先進国のなかでは物価も通貨も安いので、インバウンド政策も相まって、観光地は海外からの旅行客であふれかえっています。「観光公害」「オーバーツーリズム」といった言葉も、すっかり定着しました。現在の日本社会が置かれた状況は、冷戦終結から30年間、「グローバル化」の掛け声のもとで良きこととされてきた価値観(たとえば「積極的に移動する」ことなど)を、相対化して見直すきっかけになるかもしれません。

ロシアのウクライナ侵攻などを契機に、世界は第3次世界大戦のリスクを考えるべき局面に入りました。日本でも戦争・軍事や安全保障に関する議論が高まっています。「戦後」日本社会の多数派は、軍事や安全保障のことをあまり考えずに生活してきたので、今そうした議論が高まっていることは悪くありません。しかし、日本社会の状況も一様ではありません。沖縄をはじめとする一部の島嶼地域などと、東京を含むそれ以外の地域とでは、人びとが感じる戦争・軍事のリアリティが大きく異なります。このことは、アジア太平洋戦争から現在に至る、各地域の歴史的経験の差違にも根ざしています。

以上のような、わたしたちをめぐる問題はすべて、社会学(Sociology)を含む社会科学(social sciences)が取り組むべきテーマです。すこし抽象的な表現を使えば、社会学とは、社会の構造や変動のなかで生活している個人や集団の行動や意識、かれらの間に生じる社会関係や社会問題について、歴史的・空間的な広い視野を失わず、論理的・経験的に分析・思考する学問です。(本学科の専任教員には、社会学の専門家以外に、文化人類学、人文地理学、社会心理学、社会思想の専門家もいます。)

日本でも、4年制大学への進学率が50%を超えました。とはいえ、日本社会全体(25歳以上)でみれば、大卒者はまだ4人に1人にもなりません。みなさんは、大学進学という機会を得ることができたほうの人たちです。よく学び、よく考え、行動に移してください。

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