現在、精神障がいのある人々は361.1万人、100人あたり3.1人の割合となっています(厚生労働省2014)。この数は年々増加傾向にあり、みなさんの身近にも心療内科や精神科に受診している人がいるのではないでしょうか。精神疾患は特別な病気ではありません。誰もが罹患する可能性のある病気です。しかし、社会の中で精神障がいについての正しい理解は未だ乏しく、歴史的にみても差別や偏見の対象になりやすいと言えます。
精神保健福祉士は、精神障がいのある人を理解し、望んでいる生き方を最大限に尊重していけるように専門的な視点から支援していきます。したがって、精神保健福祉援助技術総論では、現在に至るまでの精神保健医療福祉をめぐる時代背景と制度・政策の変遷を学び、いまなぜ精神保健福祉士が求められているのかについて理解を深めます。また、精神保健福祉分野における支援としてのパートナーシップやセルフヘルプグループの重要性、ピアサポートや早期介入の役割など、実際の活動の場での展開方法についても着目します。
授業では、できるだけ具体的な事例を取り上げながら説明し、みなさんが現場のイメージを持ちやすいように心がけて取り組んでいます。また、新聞やインターネットなどによる時事的な課題を取り上げ、視聴覚教材を通して理解を深める事に加え、現場で活躍している外部講師を招き、学びを深めたいと思っています。
私が福祉の道を志すきっかけとなった原点は、アメリカの大学時代におこなったボランティアで関わった一人の少女との出会いでした。私が最初に出会ったころの彼女はまだ小学校2年生で、英語が母国語でない私に、まるで先輩のように自分の生活の事や学校の事を教えてくれました。その話の中で、いつも気になっていたのが彼女のお母さんでした。「お母さんはうつ病で薬物依存症だから私がケアしてあげないといけない」と話す彼女の姿を見て、どんな環境でも生きていく人間の強さと同時に、社会の不条理さを感じました。自分に何かできることはないのだろうかと考え、大学院へ進学し、社会福祉を学びました。あの頃は、漠然と彼女や彼女のお母さんが少しでも幸せに暮らせるための手助けをしたいと考えていましたが、具体的に自分に何ができるのだろうと自問自答した時、自分の無力さをいつも痛感していました。
あれから長い年月が過ぎ、気がつくと精神保健福祉分野で実践と研究をおこなっていました。そして今度は、教育を通して社会の中で生きづらさを感じている人々を支援する仲間を増やしていきたいと思っています。どのような分野でも人を支援するということは容易ではありません。今でも現場に出ていくと、あの頃と同じような気持ちになります。それでも現場には多くの学びがあり、多くの喜びがあります。その気持ちを皆さんと一緒に共有することができると嬉しいです。