私が担当する科目「社会福祉運営論」について、どのような領域をカバーし、どのような方法で追求していく分野であるのかを皆さんに明確に説明するのは、とても難しいことなのです。その理由として、第一に現実に動いている社会福祉活動を対象とするものであるために、国によって、また時代によって変貌する社会福祉活動の実態によって、またその論者においても必ずしも一致していないということにあります。
例えばイギリスでは、歴史的に辿れば、社会福祉運営は社会福祉政策や社会福祉行政全般の運営管理を研究する領域であり、マクロレベルでの社会的ニーズの構造や、それを充足するサービスの機能や形態、サービス供給の組織、方法、過程のあり方等が研究が蓄積されてきています。これは第2次世界大戦後、福祉国家体制の確立をめざして、イギリスでは社会福祉政策全般の運営のあり方が追求されてきたという事情があるからです。一方、アメリカでは、社会福祉援助技術の一つとして、社会福祉施設を代表とする社会福祉サービス組織・機関の運営管理のための技術として発展してきました。具体的には、社会福祉組織の目標形成、計画化と促進、協働と調整等の過程からなる、社会福祉組織の諸活動の方法の研究が中心でした。このように、社会福祉運営研究の対象や方法は、社会福祉が政策的に発展してきた国と対人援助の技術を中心として発展してきた国とではかなり違いがあるのです。しかし最近では、社会福祉サービスの民営化や施設福祉中心から地域支援へ体制の変化といった共通な課題をいずれの国も抱えるようになり、社会福祉運営研究も、国際的にみて共通なテーマを追求するようになってきてもいます。
では日本の場合はどうでしょうか。日本では、これまで社会福祉が対象となる利用者毎に施設を設置し、施設福祉を中心に進展してきた経緯から、社会福祉運営は、イコール施設をどのように運営していくべきなのかということについて追究していく領域であるという時代が長く続きました。しかし1980年代以降、ノーマライゼーションの実現にむけて、地域での在宅福祉サービスの充実が社会福祉活動の焦点となってくると、在宅福祉サービスの供給組織もその対象に含めて管理運営のあり方を考えていかねばならなくなりました。また最近では、行政や社会福祉法人などの運営する組織以外に、社会福祉サービスを提供している組織は、NPO団体や民間企業、障害当事者組織など、多様に広がってきています。
以上のような現状をふまえて、私の担当する社会運営論Aでは、このような歴史的経緯を理解していただいた上で、社会福祉施設の将来像とその運営のあり方について述べていきます。さらに、運営論Bでは、大きく視点を変えて、NPOなどの新しい福祉活動組織の可能性とまたその組織開発の方法について学んでいただくことになります。
「普通の人ってどんな人?障害者って誰のこと?」という素朴な疑問から、この領域の学問へのスタートを切ってください。障害者や高齢者のケアをすることだけが、社会福祉のしごとではないと私は思っています。たくさんの新しい福祉活動をつくっていきましょう。