2022年度の福祉開発フィールドワーク(武川担当)は,地方創生に取り組む北海道の積丹(しゃこたん)町で実施した.積丹町はかつてニシン漁で栄えた漁村で,最盛期には9000人弱の人口を擁したが,現在は約1800人となっている.
積丹町は北海道積丹半島の先端に位置し,「積丹ブルー」の海,神威岬,ウニ丼等の観光資源があり,秘境リゾートとしての地方創生が注目されている.この地域で官民による温泉リゾート開発と地域再生を手がける社会起業家と現地で会い,インタビュー調査を実施した.
2021年度と2020年度は新型コロナ禍のため実際に現地を訪ねることができなかったが,今年度は,現地を訪問することができた.感染対策として,出発直前に抗原検査が全員陰性であることを確認した.このほか常時マスク着用をはじめとする,感染対策には注意を払った.
春学期の事前学習では,参加学生の出身地の行政計画について各自で調査し,それぞれが自分の地元について語った.そのうえで、斉藤弥生・小松理佐子編『地域福祉の課題と展望』放送大学教育振興会、をテキストとして文献講読を行った.
現地調査は以下の日程で実施した.
8月24日(水) 説明会・抗原検査キット配布
9月4日(日) 東京出発→新千歳空港→小樽→美国
9月5日(月) 積丹町総合文化センター会議室にて積丹町の概要について,積丹市役所職員から説明を受ける.
終了後,神威岬へエクスカーション
9月6日(火)午前・午後 「岬の湯しゃこたん」において社会起業家・岩井宏文氏から聞き取り調査.施設見学
夜 グループワーク(インタビュー調査のまとめ)と報告会
9月7日(水) 美国→小樽,解散
秋学期は文献講読(広井良典『人口減少社会のデザイン』東洋経済),地元の地域福祉計画について研究を進め,報告書作成を行った.
また2022年1月17日に山下順三ゼミとの合同報告会を行った.
テーマ:武川クラス「人口減少社会・積丹から考える」
山下クラス「地域における子どもの支援-結局は居場所-」
以下,参加学生の報告書からの抜粋を掲載する.
私たちのグループでは、「積丹町の活性化のためには長所を知ってもらう必要がある」という仮説から、「積丹町の長所を活かして地域を活性化させるためには何が大切か」というリサーチクエスチョンを作成し、「Iさんが思う長所は何か」、「どのような工夫をして長所や短所を活かしているのか」などの質問をした。Iさんは、「長所である景色や自然など通常は無料のものから、高価でも買ってもらえるものを作っていきたい」という思いから、「長所だけでなく短所もブランド化して活かす」という工夫をしていることがわかった。(H)
4日間のフィールドワークを経て、地域活性化のための足掛かりとして、町内外問わず人々の繋がりを作っていくことが必要不可欠であると考えた。実際に現地を訪れることにより積丹町の魅力を五感で感じ取ることができるが、どれほど豊かな観光資源や伝統文化が存在しても、そこに人が関わっていなければ意味がない。 調査をする中で、次世代の担い手や働き手が不足していることから、町とのつながりをもつ「関係人口」の拡大が重要視されていることに特に関心を持った。関係人口とは、特定の地域と継続的に多様な形でつながりを持ち続ける人々のことである。 インタビューに応じてくださったI氏は積丹町出身ではないものの、町の資源に価値を見出し、クラフトジンを中心に「モノ」を媒体として全国の人々に積丹の魅力を伝えている。I氏によると町内の人々は新しい事業を始めることが難しく、I氏のような外部の人間が事業を通じて産業を盛り上げ、町の人々からの支持を得ることで、地域の活性化に繋がるのだという。(S)