1 日本の自営業に関する長期的趨勢
本研究の目的は,社会階層と社会移動に関わる大規模社会調査データ(国勢調査,就業構造基本調査,SSM調査や東大社研パネル調査など)を用いて,戦後日本における自営業の長期的趨勢を,職業構成・職業経歴・収入等の側面から明らかにすることである.
2 自営的な就労経験者の職業移動に関する社会学的研究
自営的な就労経験がキャリアの形成に及ぼす影響は,中長期的な調査に基づいて検証する必要があるにもかかわらず,断片的な調査・研究にとどまっているのが現状である.そこで本研究は,自営的就労を経験する人びとを対象として,その働き方がキャリア形成の内実(職種,労働条件,職業経歴など)に及ぼす影響を量的・質的データに基づいて解明する.
3 雇用関係によらない働き方に関するパネル調査データを用いた社会学的研究
本研究の目的は,「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(JLPS)データを用いて,雇用関係によらない働き方が人びとの非金銭的な報酬(仕事と生活の調整や将来に対する希望など)にもたらす影響を明らかにすることである.
4 福祉・労働を架橋する政策のガバナンスに関する研究
本研究の目的は,現代日本における経済的困窮と社会的排除の解決に資する社会政策はどのようなものかを,地方自治体レベルの政策に着目して明らかにすることである.具体的には,大阪府内の地域就労支援事業と生活困窮者自立支援制度の実施状況に関する量的調査と質的調査を進めている.
5 就労支援経験者のキャリア形成に関する研究
本研究の目的は,地方自治体の就労支援を受けた人びとがその後どのようなキャリアを形成しているのか(職種,労働条件など)を質的・量的調査を通して明らかにすることである.具体的には,(1)ひとり親女性たちは就労支援を受けた後にどのようなキャリアを形成しているのか,(2)就労支援はその後のキャリアにどのような影響を与えているのか,(3)就労支援経験者の経済的状況は非経験者と比べると改善するのか,を検討する.
業績の詳細については以下のWEBページもご覧ください.
https://researchmap.jp/shuheinaka
私たちの住んでいる社会は多くの人々から成り立っています.それらの人々はどこで/どのような活動をしているのでしょうか.例えば,このページを閲覧する多くの方は,大学で活動している学生だと思います.では,日本ではどのくらいの学生がいると思いますか.学生のうち大学に進学する人と進学しない人はどの程度でしょうか.そこに違いが生じているとすれば,なぜその違いが生じているのでしょうか.
上記はほんの一例ではありますが,何らかの事象がある範囲内に散らばっている状態を「分布」と言います.社会学の中でも計量社会学という分野では,「社会の分布」を記述し,そのばらつき具合を説明していきます.それによって,社会の成り立ちをより深く理解していくことを目指します.
では,どのような事象の分布を調べるのか.研究する事象を決めたとすれば,それをどのように測るのか.あるいは,それによって測り得ないものは何であるのか.より根本的には,計量的な方法を通して測定された「社会の分布」は何を意味するのだろうか.それらの答えは予め準備されているわけではありません.皆さんだったら何を対象として,どう調べますか.学生生活を通して,少なくとも自分にとって調べることが楽しい現象と向き合う時間を味わってほしいと思います.
ゼミのテーマは,「働くことの社会学」です.2021年度から新しくスタートするゼミとなります.以下は履修を募集する際に書いた紹介文を転載しておきます.
このゼミでは,「働くこと」をめぐる個人と社会の関係が,どのように変化してきたのか/変化していくのかを各自の問題関心と社会調査に基づいて考察することを目指します.私たちの生活は,何らかの仕事に従事することによって得られる収入を基盤として成り立っています.生命を維持するために食事をすること,眠るための住まいを確保すること,学校に通うことなどの日常的な暮らしには,大なり小なりのお金が必要となります.そう考えると,多くの人にとって,「働くこと」と無縁で人生を送ることは難しいと思います.
では,「働く」という行為は人々にとっていかなるものなのでしょうか.それは衣食の資を得るためだけの継続的な活動でしょうか.けしてそうではないはずです.働くことを通して自分の能力を発揮することもあれば,社会の中で何らかの役割を果たしうることもあります.しかしながら,誰がどの職業に就くのか(機会の問題),就いた職業によって得られる収入はどのくらいか(結果の問題)は,人々の間で異なります.例えば,親の収入や財産の状況によって,子どもの進路は影響を少なからず受けます.もし大学に進学するか否かによって,生涯で得られる収入に大きな差が生じているとすれば,それは人々の間に何らかの格差や不平等をもたらすことになります.
学歴・収入・財産などの社会的資源やその獲得機会が社会成員間に不平等に配分されている社会の状態を「社会階層」といいます.本ゼミでは,社会階層に関わる研究を土台にして,「働くこと」を複眼的に捉え直していきます.働くことの原理を探求することは,個人と社会の関わりを問い直す社会学の醍醐味の一つだと考えています.ウイルスの世界的な蔓延によって人々の働き方が大きく変貌を遂げる現代社会において, 人間にとって働くという活動がいかなる意味を持ちうるのか,をより確かな資料やデータに基づいて考察します.