みなさんは、福祉の中でどの領域に関心をもっているのでしょうか。課題を抱えた児童や高齢者など、個別の人に対する支援でしょうか。それとも、福祉制度のあり方など、社会全体の仕組みづくりに関するものでしょうか。私が担当するソーシャルワーク3A・Bは、どちらかといえば、後者にあたる領域について学ぶ授業です。ただそれは、すでにある福祉制度について勉強するということではなく、社会福祉の専門職として、新たな制度や仕組みを住民とともに作り上げていく、その技術を勉強していくということになります。
ソーシャルワーク3A・Bで扱う内容を、少し難しい表現で示すと、「コミュニティワークを中心とするメゾ領域のソーシャルワーク」ということになります。ここで「メゾ」とは、個別の人に対するケア・支援などの「ミクロ」の領域、そして、国全体の福祉制度などの「マクロ」の領域の中間にあるもので、市町村や都道府県等の単位を基盤とするものです。
たとえば、市町村という単位でみると、課題を抱えた高齢者や障害者がひとりではなく、多数いることがわかります。また、高齢者福祉や障害者福祉等の縦割りの福祉の枠組みでは漏れてしまうけれども、福祉的な支援を必要としている人も実際には多くいます。ソーシャルワーク3Aでは、そのような地域の福祉課題を、地域住民とともに調べ、改善策を検討し、新たな福祉のしくみやシステム、事業等を作り上げていく「コミュニティワーク」に焦点を当て、その考え方や具体的な技術を学んでいきます。
また、ソーシャルワーク3Bでは、高齢者や障害者など、ひとりひとりの要援護者への支援(個別支援)をベースに、地域での仕組みづくり等へ展開していく「コミュニティソーシャルワーク」の考え方や、市町村における計画策定の技法等について、より詳細に学んでいきます。
いずれの授業についても、事例学習やミニ演習、映像視聴を多く取り入れることで、具体的なイメージを持ちながら学んでいけるように心がけています。
下記に挙げた本は、いずれも地域福祉学会の優秀実践賞を受賞した団体によるものです。行政や社会福祉協議会の取り組みが地域を大きく変えていく、その面白さを感じてもらえればと思います。
1は、地域福祉論を体系化した著者による1973年発刊の「地域福祉論」の復刻版です。地域福祉とは何か、また地域をどのように捉えるかということについて深く考えるきっかけになると思います。また2、3は地域を基盤にしたソーシャルワークについて学んでいく際に、ぜひ読んでもらいたい文献です。
私が福祉、特に自治体や地域を単位とする福祉に関心をもつようになったきっかけは、親族が介護が必要になった際に感じた、自治体の福祉サービスへの不満でした。「行政はあてにならないのか」と感じる一方で、その当時いわゆる福祉先進自治体の話題が新聞等でも見られるようになったという時代状況もあり、自治体間の福祉の取り組み状況の違いに興味を持つようになりました。そして、住民の立場から見て安心感や期待感がもてるような行政はあるのか、あるとしたらどのような取り組みがされているのかというような素朴な問題関心をもち、大学院に進みました。
このように行政に対して否定的ともいえる思いを当初はもっていたわけですが、実際に研究をスタートし、ヒアリング等を行う中で、徐々にその考えも変わってきました。それは、福祉をつくるのは行政の力だけではなく、社会福祉協議会をはじめとする様々な福祉関係機関、そして究極的には地域の住民自身でもあるということの気づきでした(もちろんそこに果たす行政等の役割は大きいのですが)。
住民の声や力を活かしながら、よりよい社会を作り上げていく、そのダイナミズム、面白さをぜひみなさんにも感じてもらえればと思っています。